ときめくたびに性別が逆転! 架空の“性転換症候群”で体の性別が入れ替わる世界で起こる、男女あいまいラブコメ

マンガ

公開日:2020/12/31

『ぜんぶきみの性』(浅月のりと/KADOKAWA)
『ぜんぶきみの性』(浅月のりと/KADOKAWA)

 高校見学で出会った女子に一目惚れ! でも彼女には大きな秘密が…いろいろ曖昧な男女の恋愛模様を描いた『ぜんぶきみの性』(浅月のりと/KADOKAWA)。

 舞台は、とある“きっかけ”で肉体的に性別が逆転する「TSS」(性転換症候群)が存在する世界である。現代医学では病気なのか体質なのかも不明。骨格ごと性別が瞬時に変わるメカニズムもわかっていない。

 そして主人公・鷺宮了(さぎみや りょう)が出会った水上凪沙(みかみ なぎさ)は、生まれつきのTSS。さらに凪沙を好きになったその日から、了もまた後天的にTSSになってしまう…。

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 本作はいわゆるTS(トランスセクシャル)もの。女子になってしまう男子が、性別のあやふやな相手を好きになるラブコメディだ。ほかの登場人物たちも「性自認」と「身体的性」が微妙で、「性的指向」もマイノリティ。彼らの曖昧で複雑な恋愛も描かれている。

 ともすると辛く苦しいトーンになってもおかしくないのだが、『ぜんぶきみの性』は非常に軽やかに、楽しんで読めるのが印象的だ。

ときめくたびに性別が逆転! 恋した先輩は女性? 男性?

 了は憧れの先輩・凪沙のいる高校に入学する。すでにTSSは一般的に認知されており、周りもそれほど気にしていない。「性転換芸」などと笑いごとですまされるほどだ。ただ凪沙はTSSである以上に、成績優秀・品行方正(おまけにルックスも良い!)な学園のアイドルで、非常に目立ちまくっていた。

 TSSの肉体が変化するきっかけ、それは「ときめきを感じること」だ。了は先輩のことを考えるたびに男女が逆転しまくる。どれだけ凪沙にときめき続けているのか…。

 一方凪沙のTSSはめったに発動しない(唯一「動物のかわいさ」にときめく)。了と初めて出会った時には女子だったが、基本的に男子(の肉体)で安定している。ただ後天性と違い、生まれつきのTSSは元の性別がわからない。ここが物語のポイントだ。

 自分に「ときめき」をわかりやすく感じている了に、凪沙は言う。

「異性」という感覚が無い僕は恋愛感情が理解できない
男女どちらを好きになるのが正解なのか…わからないんだ

僕を好きになるなんてやめておいたほうがいい

 その表情に、寂しさをみてとった了は言い放つ。

俺が先輩にわからせてあげますよ!
人を好きになる気持ち!

 凪沙はかわいい笑顔をみせる。そこで了はもちろんTSSを発動…。また了は凪沙がアルバイトをしているコスプレカフェ「Monange」(モナンジェ)にスカウトされ「先輩のコスプレが見られる」と、なしくずしにバイトを始める。働いている最中もTSSは発動しまくりなのだが。

 さらにTSS同士だから…と、ふたりは寮のルームメイトにさせられる。凪沙は“女子時”に無防備に肌をさらし、寝ぼけて了のベッドに入ってくるなど、ドキドキなシチュエーションの連続だ。ちなみに“男性時”の凪沙が動物にときめくのをみても、了は普通に反応してしまう。片思いのときめきは多発しまくるのだ。

ふたりの関係と気持ちは変わるのか、変わらないのか?

 ストーリーは、了がただドタバタと男女逆転するだけの日々ではない。バイト先のモナンジェには“いろいろと曖昧”な男女が働いていた。見た目は女子にしかみえない男子高校生、トランスジェンダーの女子大生、同性愛者のカップルもいる。TSSが存在するこの世界にも性的マイノリティは存在しているのだ。

 彼らはあやふやではあるものの、自由な恋愛をしている。それらを目にした凪沙の気持ちに少しずつ変化が起きて…。この続きはぜひ本編を読んでみてほしい。

 物語の柱であるTSSとは一体何なのか、治るという言い方が正しいかわからないが、彼らのあやふやな性別は確定するのだろうか。また了が後天的にTSSになった鍵を握る謎の女性の正体は…。いくつかの謎もこれから明かされていくだろう。

 単純に楽しめるラブコメディではある本作だが、読んでいてわからなくなったことがある。恋愛は性別の変化に依存するのかしないのか、ということだ。好きな相手が、性的指向はそのままに性転換したとしても、はたして自分の気持ちは変わらないでいられるのだろうか。

 了はたとえ肉体が逆転しても、性別が不明瞭だと知っても、ときめく心は変わらなかった。このふたりの行く末、見守らずにはいられない。

文=古林恭