世界的に大ヒット!10の「思い込み」を捨てよう。目の前の数字に振り回されがちな私たちに必要な教養『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』【3分でわかる】

ビジネス

公開日:2021/1/7

FACTFULNESS(ファクトフルネス)
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド:著、上杉周作・関美和:訳/日経BP社)

 コロナに翻弄された一年を経て、いよいよ2021年がスタートした。ニュースで報道される感染者の数を見守るのがすっかり日常になってしまったが、これほど多くの人が「数字」というエビデンスに振り回されたことは今までなかったかもしれない。数字だからこそ確かだとわかっているけれど、それをどう読み取ったらいいものか…そんな不安に、ベストセラーの『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド:著、上杉周作・関美和:訳/日経BP社)はよきヒントをくれそうだ。

 2019年に出版された『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』は、世界を「思い込み」ではなく「データ」(=ファクト)で見れば、思いもよらない実相が見えてくることを世に知らせた世界的に大ヒット作だ。日本でも100万部を突破し、「ビジネス書大賞2020」を受賞するなど人気は継続中。多くの人が本書に注目するのは、不安な時代を生きる本質的なヒントがここにあると気がついたためかもしれない。

 著者のハンス・ロスリング氏はスウェーデンの医師・公衆衛生学者であり、「事実に基づいた世界観(fact-based world view)」の考え方を促進するため息子夫婦と本書を執筆。教育・貧困・環境・エネルギー・人口など幅広い分野についての最新の統計データを紹介しながら、賢い人ほど陥りがちな世界についてのとんでもない勘違いを指摘していく。

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 たとえば、あなたも「世界では戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている。金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ。何もしなければ天然資源ももうすぐ尽きてしまう」と考えていたりしないだろうか。本書の冒頭にある13問のクイズに答えると、実はそんな世界観は単なる思い込みであることに気がつくだろう(たとえば「世界の1歳児で、なんらかの予防接種を受けている子供はどのくらいいる?」について答えをA 20%・B 50%・C 80%から選ぶというもの。ちなみにこの問いの正解はCの80%だ)。

 本書ではこうした世界観を「ドラマチックすぎる世界の見方」と呼び、なぜ私たちがこんな思い込みをしてしまうか考えていく。そしてその原因として「10の本能」を指摘するのだ。

 1つは「世界は分断されている」と思い込む「分断本能」。2020年はアメリカ大統領選挙もあったためこの「分断」がやたらキーワードになった印象があるが、本書によればこのワードが出てきたらちょっと注意したほうがいいらしい。

 実は統計で細部を確認すると「二極化・分断化」と表現されている案件でも多くの場合はその中間部分に大半のデータが集まっており、極端な面だけが強調されて中間が見えにくくなっているというのだ。現実をちゃんと見るにはこうした分断本能を抑えるのが大切であり、そのためには大半の人がどこにいるか探すようにするといい。「平均の比較や極端な数字の比較の裏には見えなくなっている中間層がいる」と思い出すクセをつけるだけでも世界への認識は変わってくるだろう。

 また「危険でないことを恐ろしいと考えてしまう思い込み」である「恐怖本能」を抑えるのもいまどきは大事そうだ。人は恐ろしいものには自然と目がいってリスクを過大評価しがちとのことだが、たしかにコロナ禍でもつい悪いシナリオにばかり目が行ってしまう。この本能に惑わされないためには、“恐怖と危険は違うもの”であることに気づき「リスクを正しく計算すること」。油断は禁物だが、冷静に現実をみつめて、本当に危険なことは何なのか見極める必要がある。

 このほか「ネガティブ本能(世界はどんどん悪くなっている)」「過大視本能(目の前の数字がいちばん重要だ)」「犯人捜し本能(世界を責めれば物事は解決する)」など、思い込みを助長する注意すべき本能は全部で10個。詳しくは本書で確認してほしいが、数字に振り回されがちな今だからこそ、こうした本能を自覚しておくことで少しクールダウンできるかもしれない。ちなみに全体にポジティブな内容なので、読めばちょっと前向きになれるのもうれしい。まだまだ先が見通しにくい中で、自分の心を守るおまもりにもなってくれそうな一冊だ。

文=荒井理恵