『銀のニーナ』のイトカツ最新作! 夫との時間がつくれない新妻・日菜子×9歳義弟の新生活はいかに……?【試し読み】

マンガ

公開日:2021/1/9

みつば君はあにヨメさんと。
『みつば君はあにヨメさんと。』(イトカツ/双葉社)

『銀のニーナ』のイトカツさんによる最新作『みつば君はあにヨメさんと。』(双葉社)は、ぜんそく治療のため、東京を離れて海辺の町で暮らす兄夫婦に身を寄せた少年みつば君(9歳)と、兄嫁・日菜子さん(21歳)の物語だ。

 新婚家庭でおじゃま虫なんじゃないかと気が引けているみつばだけれど、兄は激務でなかなか家に帰ってこない(ので本編には今のところ登場しない)。専業主婦の日菜子の関心は自然とみつばに向かうこととなり、屈託なく全力でみつばにかまう彼女との日々をゆるやかに描きだす本作。癒し系スローライフマンガかと思いきや……みつばと日菜子、それぞれの心に侵食しているさみしさと不安が垣間見えた瞬間、ほんのり切なさが襲ってくる。そのバランスが絶妙で、読んでいてぎゅっと胸が締めつけられる。

 そもそもみつばのぜんそくは生まれつきのものではない。勉強が得意ではなく、なかなか成績のあがらないみつばについて、両親が話しあっているのを聞いた数日後に発症したもの。純粋にみつばを心配しているというよりは、落胆した様子の両親。「みつばのことは考えなおさなきゃいけない」という言葉。子どもにとって、親から見放されたように感じるのは何よりきついことだろう。さらに転校先でも「この程度で補習なんてやばい」とクラスメートに言われてしまい、みつばはさらに落ちこんでしまう。けれど、行き場のない不安や焦りを抱えるみつばに、日菜子は寄り添ってくれるのだ。

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 大丈夫だよ、という日菜子の言葉がみつばを救ったのは、短い時間の中でも、協力しながら生活を営んだ時間があるからだ。友達同士のように公園で一緒に遊び、買い物に行き、食卓をかこむ。料理をはりきりすぎて、早くも燃料切れを起こした日菜子のかわりに、みつばが自分につくれるささやかな食事をふるまい、無理のない範囲で一緒に暮らしていこうと語りあう。微力ながらも日菜子の役に立っている、という実感が、みつばに自信をもたせ、日菜子の「大丈夫」を信じる力にもなるのだ。

 実際、みつばがいることで日菜子も救われているのだということが、1巻のラストで明かされる。いちばん幸せであるはずの新婚期に、夫との時間がつくれず、知らない土地で一緒に出掛ける相手もいなかった日菜子。たまに友達と話せば、自分より大変そうな彼女たちに愚痴を言うこともできず、姉にこぼせば「だから結婚はまだ早いと言ったんだ」とまっこうから否定される。そんな出口の見えない生活に、みつばの存在は、風を通してくれたのだ。

 よく考えてみれば、夫婦だって最初は他人。血の繋がりがないからこそ、遠慮がちに、相手との距離をはかりながら、歩み寄っていくことができる。その過程で人と人は「家族」になっていくのだと、本作を読んでいるとしみじみ思う。ぎこちなさは残しつつも、ときに姉弟のような、母子のような2人の日々に癒されると同時に、誰かと暮らすことの尊さが沁みる。

文=立花もも

1話試し読み