池脇千鶴、草笛光子出演でドラマ化! 平均年齢70歳のホステスを描く『その女、ジルバ』――手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞作

マンガ

公開日:2021/1/8

その女、ジルバ
『その女、ジルバ』(有間しのぶ/小学館)

 1月9日より実写ドラマが放送されるマンガ『その女、ジルバ』(有間しのぶ/小学館)。40歳の主人公・笛吹新(うすいあらた)が、平均年齢70歳のホステスがもてなすバー“OLD JACK & ROSE”で働くことになる……というあらすじを聞いたときは、苦難を乗り越えて生きる女性たちの救いを描いた物語かな、とぼんやり想像していたのだけれど、言葉で簡潔にまとめられないところに、強く、深く、胸に突き刺さるものがあって「老いも若きも女も男も、四の五の言わずとにかくまずは読んでほしい……」と配って歩きたくなるマンガだった。

 大手百貨店のアパレル売り場から「姥捨て」と呼ばれる物流倉庫にまわされ、結婚を意識していた恋人にも去られ、くすんだ日々を送っていた新。四十女に肉体労働はきつい、お給料も心もとないけれど転職なんて考えられない、このままなんのアテもなく独りで老いていった先で、自分はどうなるのだろう……? と漠然とした不安を抱いていた矢先、目を留めたのがホステス募集の張り紙。そして、時給2000円、40歳「以上」という信じがたい条件につられて“OLD JACK & ROSE”に足を踏み入れたところから、彼女の人生はふたたび動きはじめる。

 清純派のアイドル的存在・ひなぎくに、世話好きでちゃきちゃき動くナマコ、着物の似合う和風美人のチーママ、自称最年少で元深窓の令嬢・エリー。くじらママを含め、平均70歳のパワフルな先輩方のもとでは、新あらため源氏名アララは、「ギャル」「小娘」と若造扱いされてしまう。戦後を生き抜いてきたママたちは、みんな身体のあちこちにガタがきているし、見せないだけで心も傷だらけ。だけど背筋を伸ばして、豪快に笑って今なお現役の姿を見せる彼女たちの姿と、「40歳なんてのびざかり」というくじらママの言葉が、人生の軌道修正なんてもう無理だ、と思っていた新の背中を押してくれる。

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 ママたちの笑顔の底には、故人となった初代ママ・ジルバとの思い出がある。壁にかけられた写真では、苦労なんて一つも知らないような朗らかさで笑っているジルバ。けれど〈よく見るとその「笑顔」はただ陽気であけっぴろげなだけでなく、毅然とした「意志」があった――「なんだって笑ってやる」「笑いとばしてやるわ、かかってこい」とでもいうように。〉と新が感じたように、ブラジル移民だった彼女の背負ったものは、重くてやりきれないものばかり。そんなジルバとの思い出を、彼女と関係のあったマスターの幸吉やくじらママたちが振り返り、みずからの過去をも明かしていくのだが、その過程で語られるブラジル移民の歴史と、福島出身の新が経験した被災の過去とが重なりあって、巻を追うごとに物語は重厚感を増していく。

 新とジルバの二役を池脇千鶴が、くじらママを草笛光子が演じると知ってドラマへの期待もがぜん高まっているのだが、おそらく原作で描かれていたほどに、ブラジルと福島の話は語られないだろう、と思う(しかたがない)。なので、ドラマをきっかけにでも本作に興味をもった方は、ぜひとも、原作を手にとってほしい。決してやり直しのきかない人生、死ぬまで後悔を抱えるのだとしても、いつだって新しく切り開くことができるのだという、本作で描かれる力強い希望に、どうか触れてほしい。

文=立花もも