「子どもの成果や能力をほめる」のはNG! 全米トップクラスのオンライン学校の日本人校長が教える「子どもをダメにする8つの習慣」

出産・子育て

公開日:2021/1/12

『スタンフォードが中高生に教えていること(SB新書)』(星友啓/SBクリエイティブ)
『スタンフォードが中高生に教えていること(SB新書)』(星友啓/SBクリエイティブ)

 コロナ禍でオンライン授業の普及はたしかに進んだ。しかし、以前から日本は海外に比べてデジタル化が遅れていると指摘されていたとおり、現場の先生方の苦労にもかかわらず、オンライン授業の実施は右往左往が目立った。

 一方で世界的に知られるアメリカのスタンフォード大学は、すでにその一部に中高一貫のオンライン学校をもっている。この学校「スタンフォード大学・オンラインハイスクール」は、全米トップ校として世界中の注目を集めている。オンライン授業の未来に留まらず、教育そのものの未来のヒントが、この学校の考え方や取り組みから見えてきそうだ。

『スタンフォードが中高生に教えていること(SB新書)』(星友啓/SBクリエイティブ)は、「スタンフォード大学・オンラインハイスクール」の姿を赤裸々に明かしている。著者の星友啓さんは、学校のすべてを知る日本人校長だ。

advertisement

 設立15年ほどと若い学校にもかかわらず、全米の学校ランキングや進学校ランキングでトップの常連となっているスタンフォード大学・オンラインハイスクールだが、本書は立ち上げ当初の苦しさを語っている。オンライン授業では生徒の社会性や感情の学習サポートができない、生徒が授業に集中せず成果が上がりにくい、などの考えがあったからだ。もしかしたら、これは、私たちの周りにも根強く残っている考えなのかもしれない。

 そんな中で、著者である星校長は、まず学校の定番を見直した。オンライン教育のみならず、それまでの教育の伝統にもメスを入れなければ、従来の学校を超える未来型の素晴らしい学校はつくれないと考えたからだ。

 本書は、教育の伝統を「子どもをダメにする間違った習慣」として、8つ挙げている。いずれも、教育意識が高い人ほど意外に思う内容のはずだ。各項目の解説のごく一部と併せて、ご紹介したい。

(1)「成果や能力をほめる」
逆に向上心が下がってしまう。ほめ方は難しく「諸刃の剣」。成果や知性ではなく、子どもの努力や学ぶ姿勢をほめたい。

(2)「手取り足取り丁寧に教える」
学びが浅くなり、探究心が削がれる。教えるということは、教わる側の思考を制限する行為でもある。子どもの学び方や考え方を尊重し、複数の異なる視点の取り方を奨励していく。

(3)「評判の教材や勉強法で学ばせる」
才能もやる気も潰してしまいがち。期待される学びが得られるかどうかは、その子どもの現在の学習進度、能力、やる気などに適しているか次第。

(4)「得意な学習スタイルで学ばせる」
脳科学に反する行為で記憶が定着しにくい。子どもが得意だと思っている「学習スタイル」で学習効率が上がるという考えには、科学的根拠がない。特定の方法のみでなく、さまざまな学習方法を通して学んだほうが、記憶の定着が促される。

(5)「ストレスを避ける」
人間のDNAに逆らって余計ストレスの悪影響が出る。適度なストレスは記憶力や集中力を高める。大切なのは、ストレスとうまく付き合っていく心構えを身につけること。

(6)「テストで理解度や能力を測る」
最高の学びのチャンスを逃してしまう。テストでは実力を測ることができない。しかし、高い学習効果を導く「記憶の呼び起こし」としては非常に有効。評価する道具ではなく、学びを生み出す道具だと捉え、上手に活用したい。

(7)「同じ問題を反復練習させる」
スピードが上がっても思考力は下がる。早くできることとじっくり深く考えることは、脳科学的に違う活動。例えば、学習ドリルから20問同じような問題を解くのではなく、5問だけ選び、それぞれの問題を4つずつ違う解き方で解いていくようなイメージをもつ。

(8)「勉強は静かに1人でやらせる」
脳の「半分」は休止状態のまま。最新の脳科学では、学習にコラボが超重要だと分かってきた。単に勉強するのではなく、他の人に教えることを目的に学ぶ、教え合うなどの効果的な方法を模索する。

 スタンフォード大学・オンラインハイスクールでは、実際にこれらの“伝統”を排除した学校づくりに挑んだ。結果、学校の定番を取っ払った型破りな学校が誕生した。伝統的な講義ベースの授業ではなく、すでに予習で学んできたことを授業で使う「反転授業」をオンラインで初めて取り入れ、学年制度をなくし、カリキュラムや時間割は子どもそれぞれに合わせ、評価のためのテストを廃止した。このような革新的な取り組みは、「ギフテッド」と呼ばれる才能や高い能力がある子どもたちや、教育意識が高い家庭の興味を引き、次々に成果を挙げていった。

 学校の考え方や取り組みは非常に具体的に厚く書かれているが、それは本書に当たってもらいたい。本記事では最後に、本書が示している未来の教育イメージの一部をご紹介したい。

(1)「パーソナライズド・ラーニング」
それぞれの生徒が違う教科書や教材を使用。同じ学年の生徒でも学ぶことが全然違う。個人学習とコラボ学習の時間が混在する。

(2)「アクティブ・ラーニング」
先生の講義の時間が少ない。反転授業が当たり前。居眠りの生徒と、宿題ドリルが減る。

(3)「プロジェクト・ベースド・ラーニング」
自分で調べる機会が増える。現実社会と学びの関連性が見えやすくなる。子どもの興味や学ぶ主体性が尊重される。プロジェクトでの評価が増え、テストが減る。

(4)「学びの科学」
学校の始まる時間が遅くなる。同じことでも複数の学び方で学ぶ。「学び方」学科ができて、学び方を指導するスタッフが在中する。

(5)「EdTech(「Education(教育)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語)」
黒板はスマートボード。生徒の机にスマートボードやコンピューター。紙の教科書やノートが激減。生徒の活動や学習が細かく記録されて、データ分析による指導の拡大。

(6)「学習の分散化」
学校で勉強する時間が短くなる。登校する日を選べる。生徒や教師とのオンラインでのやり取りが増える。学校で学ぶ科目が減る。クラブやコミュニティー活動の時間が増える。

 今は、教室でのオフライン授業とオンライン授業は切り分けて考えられがちだが、本書を読むと、オフライン・オンライン授業は将来的に融合していき、境目がなくなっていく未来が見える。現状、教育においてオンライン授業が使いこなされているとはまだ言えない学校が多いかもしれないが、本書を手にすれば、未来の教育を先取りする契機だとポジティブ、アグレッシブに捉えられるかもしれない。

文=ルートつつみ(https://twitter.com/root223

あわせて読みたい