恥ずかしがりやの子どもが「考える力」と積極性を身につける! 南部せんべいの魅力も溢れる青森県五戸町のご当地絵本

文芸・カルチャー

公開日:2021/1/18

せーんべせんべ 五戸のおんこちゃん
『せーんべせんべ 五戸のおんこちゃん』(東京ハイジ/岩崎書店)

 おいしいものを見ると嬉しくなるのは、大人だけでなく子どもも同じ。『せーんべせんべ 五戸のおんこちゃん』(東京ハイジ/岩崎書店)は、青森県五戸町(ごのへまち)のおいしい名物「南部せんべい」が登場する絵本です。

 南部せんべいは、主に小麦粉と水を使ったシンプルなおせんべいで、クセになるおいしさ。けれど、絵本の主人公であるあおいくんは、“おやつ”がいつも南部せんべいなので「またこれかぁ…」と不満顔。

 そんな時に登場するのが「おんこちゃん」です。おんこちゃんは、五戸町にある「おんこの木」の妖精のようなもの。おいしいものが大好きで、その姿を見かけるとしあわせになれるとか。おんこちゃんに出会ったあおいくんは、どのように変わっていくのでしょうか?

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「たいこたたき」になりたいけれど……

せーんべせんべ 五戸のおんこちゃん P4-5

 あおいくんは、今度のあきまつりで「たいこたたき」になりたいとお母さんに打ち明けました。ところが、「いつも本番になると恥ずかしがってちゃんとやらないでしょ」と反対されてしまいます。あおいくんは返す言葉も見つかりません。しかも、今日のおやつも南部せんべい……。

 とぼとぼと歩いていたらお地蔵さんに出会い、「たいこたたきになれますように」とお願いするあおいくん。すると、お地蔵さんが「せんべの味比べしたら、楽しがべなぁ」とつぶやくではありませんか! お地蔵さんの後ろにいたおんこちゃんのひとりごとなのですが、あおいくんは「お地蔵さんは、せんべの味比べができたら僕の願いも叶えてくれるんだな」と勘違いしてしまい!?

 あおいくんは自分の願いを叶えるために、南部せんべいの食べ方を五戸町の人たちに聞いてみることに。お地蔵さんが味方についてくれているから、なんでもできるような気持ちになっています。

 五戸町の人たちに話を聞けば聞くほど、楽しそうな表情に変わっていくあおいくん。いつのまにか、「ビックリ夜店」で南部せんべいのさまざまな食べ方をみんなに伝えることができるほど、積極的になっていました。そして、きたるあきまつりでは——。

南部せんべいのさまざまな食べ方におどろき!

せーんべせんべ 五戸のおんこちゃん P12-13

 あおいくんが五戸町の人たちから聞いた、南部せんべいの奥深さといったら…! 「りんごジャム」や「生キャラメル」をのせれば、おやつにぴったり。ピザやおでんと合わせたら軽食にも。きわめつきは「せんべいじる」。野菜などの素材と一緒に煮込んだB級グルメで、地元では給食にも出てくる郷土料理だとか。みんな、おうちでも真似できそう! 絵本の最後に出てくる「あおいのたべかたノート」は必見です。

 いつも同じ味で食べる気になれなかった南部せんべいが、ちょっとした工夫でおいしそうなおやつに早変わり。南部せんべいと同じように、普段できないことやイヤなことも、工夫次第でおもしろくなるのでは? 子どもが壁にぶち当たったとき、本書が壁を乗り越えるヒントをくれるかもしれません。

東京ハイジさんの故郷、五戸町のご当地絵本

せーんべせんべ 五戸のおんこちゃん P16-17

 作・絵を手がけたのは、『ボウロのうた』『はみがきのうた』など、子どもが本当に見たい動画をつくり続けるクリエイターの東京ハイジさん。絵やキャラクターのかわいさはもちろん、子どもが共感できるストーリーや、“しつけ”にも役立つ動画が大人気です。

 この絵本は、東京ハイジさんの故郷である五戸町が舞台となったご当地絵本。「じゃ!じゃ!さばもあうってが!」とおんこちゃんたちがしゃべる方言「南部弁」は絶妙にかわいく、親子で真似しながら読むのも楽しい!

 本の中で描かれる「あきまつり」や「ビックリ夜店」、「五戸町図書館」や「南部バス」などは実在するもの。「迷路」のページでは、五戸町の各スポットをめぐってあそぶこともできます! この本を読んだあと、いつか五戸町に行くことができたなら、絵本×体験の“深掘り”で子どもの探究心をさらに伸ばせるかもしれませんね。

「考える力」で成長したあおいくんをお手本に

 五戸町の魅力や南部せんべいのおいしさはさることながら、筆者がこの本で発見したのは、「子どもは自分の力で考えて、自分の力で成長していくんだな」ということでした。

 願いを叶えるため、何をしたらいいのかを自分で考え、「たべかたノート」を通して町の人たちと交流することで“恥ずかしがりやさん”を克服したあおいくん。成功を引き寄せたのは、誰に頼ったわけでもなく、まさに自分の力でした。その姿にわが子が重なるようで…。これからの時代に必須だと言われる「考える力」、あおいくんがお手本になるかもしれません。

 しあわせを分けてくれる五戸町のおんこちゃん。いつか会いにいけるといいですね!

文=麻布たぬ