がんばれ赤血球! BLACKな職場(体内)で巻き起こった、さらなるトラブルとは――とある成人男性がTVアニメ『はたらく細胞BLACK』を考察する②

アニメ

公開日:2021/1/22

はたらく細胞BLACK
TVアニメ『はたらく細胞BLACK』 TOKYO MXほかにて毎週土曜24時より放送中
(C)原田重光・初嘉屋一生・清水茜/講談社・CODE BLACK PROJECT

はたらく細胞BLACK

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はたらく細胞BLACK

「BLACKな体内」は、今度は何に悩まされるのか…?

 先輩(赤血球)たちは嫌味を言いながら無理難題を押し付け、ともに働いている仲間(マクロファージ)は憔悴し、身体が燃えている同僚(粘膜細胞)に怯えていると、敵(細菌)が現れる。死と隣り合わせの職場――そこで働く意義を求め、前を向き必死にもがく赤血球(AA2153)! その最中、降り注ぐアルコールの雨! そんなときはアルコールでごまかすしかない!(第2話より)。この世界はつくづくBLACKだ!

 体内で働いている細胞たちの擬人化ドラマを描く『はたらく細胞BLACK』。そのアニメ版では1時間スペシャルとして第3話、第4話の連続放送が行われた。「なぜ、1時間スペシャルに?」の疑問は、オンエアを観て、なんとなく解けた気がした。

 今回、赤血球たちに与えられた新たな指令は「勃起」。彼らは陰茎に突入し、螺行動脈の壁を広げるという過酷なミッションをこなすことになる。だが、ストレスが原因で性的興奮が低下……血管は収縮を始め、勃起不全(ED=Erectile Dysfunction)になってしまう。だが、そこに外部から「あるもの」が投与されて……というのが、第3話のお話。

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 さらにその後、体内に淋菌が侵入。なんと白血球が敗退し、淋菌の増殖を許してしまう。強力な淋菌に、残っている白血球は決死の覚悟で立ち向かおうとする。絶体絶命に追い詰められた赤血球や白血球たちの運命やいかに(第4話)!

 EDと性病という、現代人にとっても身近な問題を、細胞を擬人化することで、体内を労働に見立てて描いていく。EDに苦しみ、性病と戦う赤血球と白血球たちの死闘は、熾烈を極める。懸命に働き続ける赤血球の姿は、他人事には思えない。これは単なるアニメのエピソードではない。我々にとっては「すぐそこ」で起きている現実なのだ。

 実際、現代の日本において、EDの人口は多いのだという。そんなEDに悩む人を救う治療薬が……本作でも描かれている「シルデナフィル(sildenafil)」。ED治療薬、よく知られた商品名でいえば、「バイアグラ」である。

はたらく細胞BLACK

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はたらく細胞BLACK

救世主現る? はたらく細胞たちの運命は――

 ちなみに、この「バイアグラ」は偶然生まれた薬であるといわれていることは、ご存じだろうか。

 当初「シルデナフィル」は、狭心症の治療薬(降圧剤)として研究が行われていた。だが臨床試験を行ったところ、降圧剤としての効果は残念ながらあまり認められなかったという。臨床試験は中止。被験者から「シルデナフィル」を回収しようとしたところ、多くの被験者がこの試薬を返却しなかったのである。なんと、被験者たちは、「シルデナフィル」に勃起促進の効果があることを発見し、服用していたのだった。

 これを知った研究者たちは「シルデナフィル」をED治療薬として研究を開始。やがて、ED治療薬「バイアグラ」が誕生した。1998年にアメリカで登場すると、爆発的なヒットを呼んだ薬となった。効果を明確に発揮するため、多くのEDに悩んでいる人を救った。日本でも1999年に厚生省が製造承認をおろし、一気に日本中に普及したのだ。

『はたらく細胞BLACK』の舞台となっている身体は、「ストレスが原因で性的興奮が低下、血管は収縮を始め」た状態。EDによる血管収縮に苦しむ赤血球たちにとって、「バイアグラ」はまさに未来を切り開く薬だったのかもしれない。しかし喜ぶ脳のスタッフたちの横でつぶやく司令の言葉が重い……。

「素直に喜んでいいのか……シルデナフィルを用いてまでの勃起……この身体はそこまで追い詰められているということ……」

 第1話でタバコを吸って、第2話でアルコールを飲み、ストレスをためてEDとなって「バイアグラ」を飲み、淋病になりかけた肉体は、体内ではたらく細胞たちにとっては、まさしくBLACK職場。しかし、赤血球ないし体内の細胞たちはまだめげていない。

 がんばれ赤血球!!! 負けるな白血球!!! 他人事とは思えない『はたらく細胞BLACK』の物語は、まだまだ続く。赤血球たち、白血球たちにはまだまだ頑張ってほしいのである。

文=志田英邦