命とは? 生きるとは? 考えずにはいられない、美しさと闇の入り混じる世界の物語

マンガ

公開日:2021/1/27

MAGICA
『MAGICA』(星海ゆずこ/大和書房)

 大人になっても、時々無性に絵本のような世界観を楽しみたくなることがある。キラキラしていて、それでいてたまにゾッとする場面や切なさもあって…それでもなんだか夢のあるお話。現実では出会えないような場面を見られるのも、物語の醍醐味だ。

『MAGICA』(星海ゆずこ/大和書房)は、そんなおとぎ話のような世界を見せてくれる、心にじんわりくる物語。著者の星海ゆずこさんは、pixivやTwitterなどSNSで話題の漫画家。可愛いイラストで描かれるストーリーには、美しさと残酷さが交差する不思議な魅力がある。『桜蘭高校ホスト部』(白泉社)の著者である葉鳥ビスコさんも、「この世界の住人になりたい。宝物にしたくなる作品です。」と絶賛している。

 この物語は、1人のこどもが人間と鹿の間の容姿をした魔法使い・マジカに本を読んでもらう、という形で進められる。

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 その本には命のかがやきを宝石に変えることができる、でもそれだけしかできない少し変わった魔法使いが登場し、彼が宇宙中の喜劇と宇宙中の悲劇を見届けていく。描かれるのは、「美しい国」「しあわせの刃」「極悪ユートピア」、そして描き下ろしである「不死鳥のあさぼらけ」の4つの世界。どの物語も、独特の思想や価値観を持った世界の中で、そこから外れてしまった者たちの物語だ。

 例えば「美しい国」。この国では生き物は老いないし、花も枯れない。寿命が尽きるその時まで美しいまま。これは18歳になると酒と人魚の肉が解禁され、1日1回人魚の肉を食べることで若さを保っているから。人魚を水産物として独占しているこの国の人たちは、自分たちが一番美しく自由であると信じていた。

 しかしここで、主人公・ルキはある魔法使いに出会う。キラキラと光るその魔法使いは、ルキたちのことを羨むどころか、「あなたの国は人魚に呪われてしまっているのね」と言う。

 この言葉にルキは憤慨。しかし翌日人魚を釣り上げ、それを育てて食べるためペットとして飼い始めたことでルキは変わっていく。人魚はルキにたくさんのことを教えてくれたのだ。人魚は本来しゃべる生き物で、ララシュバルツという名前もあるという。

 また、海の中のことなど会話もたくさん楽しんだ。その中でルキは、この人魚のことを友達だと思ってしまったのだ。しかし――。

 この国の人たちは人魚をトマトやバジルなどと同じ“食料”と捉えており、そこに悪意はない。ごくごく自然に食べているのだ。しかし人魚側の世界を見てしまったルキはそれができなくなってしまった。

 ララシュバルツがルキに言った「世の中には知らぬ方が良いこともあるのだよ」という言葉の深さが心にしみる。

「しあわせの刃」「極悪ユートピア」「不死鳥のあさぼらけ」も、この「美しい国」のように、読めば読むほど、考えれば考えるほど深みにはまっていく命のやり取りが描かれる。『宝石の国』や『キノの旅』、『カードキャプターさくら』など、可愛さ、美しさと闇が入り混じる世界に惹かれる人ならハマること間違いなしの作品だ。一冊で多くの世界、そしてそこにある価値観の違いを垣間見ることができるこの『MAGICA』。覗いてみると、目の前の現実の違う視点が見えてくるかも?

文=月乃雫