伯爵令嬢と執事の禁断の恋! 19世紀のイギリス・貴族社会を舞台に描かれるコミック『執事と主は結ばれません』

マンガ

公開日:2021/1/27

執事と主は結ばれません
『執事と主は結ばれません』(角野ユウ/白泉社)

 イギリスの貴族社会を描いた作品といえば、ITV製作のドラマ『ダウントン・アビー 華麗なる英国貴族の館』が長年人気を誇っていて、日本でも昨年映画が公開されたばかりだが、日本の階級社会とはまた違う華やかさと閉鎖性をもって愛憎と欲望がからみあう人間ドラマが魅力的。1月4日に1巻が発売されたばかりのマンガ『執事と主は結ばれません』(角野ユウ/白泉社)は1890年、同ドラマの20年ほど前のイギリスを舞台に、伯爵令嬢と執事の禁断の恋が描かれる。

 女の身では家督を継げないため、16歳のアメリアにとって他の貴族の家に嫁ぐのがあたりまえ。父親は後継ぎの兄ばかりをかわいがり、使用人も誰もかれもが兄を最優先。孤独だったアメリアに、唯一、幼いころから寄り添ってくれたのが7歳年上の執事・ノアだった。とまあ、恋心を抱くのは当然ともいえる環境なのだが、アメリアに好感がもてるところは、家を出て自活の道を歩もうとしているところ。当時、女性が働くのははしたないことだとされていたことを考えると、教養を活かして家庭教師(住み込みで雇われる、子供たちの教育係のようなものである)などの職業をめざそうという姿勢は、かなりタフである。けれどそれは、家族に縁を切られてでも、ノアに依存することなくともに幸せになれる力をもちたいと願う彼女だからこそ、読んでいると応援したくなってしまう。

 とはいえ、そう簡単にうまくはいかない。家を出ようにも、ノアと両想いにならなければ意味がないのに、身分をわきまえた彼はなかなかなびいてくれない。あげく伯爵家とのつながりを欲する子爵家のギルバートと縁談をくまれてしまい、対処しきれずノアに諭されたうえ、「旦那様役を務めて男性とのふれあいを教えてちょうだい!」と口走るしまつ。ところがノアは、涼しい顔でアメリアを押し倒し……。

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 という禁断のラブコメ展開に突入していくわけだが、もちろんノアだってアメリアのことは幼いころから想っている。なにせ、屋敷に盗みに入った孤児のノアを、執事として雇うよう涙ながらに懇願したのはほかでもないアメリアなのだ。幼いころから孤独だったのはノアも同じで、アメリアの想いにだって当然、気づいているが、身分の差だけでなく、過去の行いを悔いている彼には一歩踏み出すことができない。そしてノアがアメリアに手を出したとなれば処罰はまぬがれないとギルバートに脅され、アメリアもまた苦悩する。はてさて、2人はいかにして苦難を乗り越えるのか。そして「男性とのふれあい」レッスンの行方は?

 1巻でいちおうの完結を迎えるふたりの関係だが、「出せなかった設定」としておまけに描かれているものを読むと、「え……? そうなの……? その部分めっちゃ読みたいんですけど……」ということだらけ。アメリアと兄の関係、ノアの過去、そしてもちろんアメリアとノアの今後。はやくも2巻に期待大である。

文=立花もも