家の概念が変わる!奇才の漫画家が描き出す、ワケありすぎる物件

マンガ

公開日:2021/1/27

いえめぐり
『いえめぐり』(ネルノダイスキ/KADOKAWA)

 物件探しには、言語化するのが難しい楽しさがあると思う。間取り図を見ていた時とは全く違った印象を受けてがっかりしたり、逆に一目で気に入ってしまったりと、感情が激しくアップダウンする内見は驚きの連続だ。もっといろんな物件を見てみたいと思い、契約まで時間がかかってしまった人も多いのではないだろうか。

 そんなワクワクとドキドキの体験を思い出させてくれるのが、『いえめぐり』(ネルノダイスキ/KADOKAWA)。作者は、同人誌「エソラゴト」が「第19回文化庁メディア芸術祭」のマンガ部門で新人賞を受賞した奇才。独特の世界観は、本作にも表れている。

 ある日、主人公は家を探すために不動産屋へ。希望条件は「部屋数多め」「静か」「駅から徒歩30分以内」と、ごく普通だった。しかし、不動産屋に案内されるのは、なぜかワケありの物件ばかり……。

advertisement

“ワケあり”というと、「事故物件」が頭に浮かぶものだが、本作に登場する家には違った“ワケ”がある。

■キテレツな発想が詰め込まれた「ワケありすぎる家」

 宇宙人の襲来を恐れて、全てデジタルで管理されている家や、クジラの体内にある家など、全8軒の物件は私たちが思い描いている「家」とは全く違ったものばかり。それぞれの物件の元居住者が抱いていた、家に対するキテレツな発想も刺激的だ。

 なかでも特にユニークだったのが、木の穴から入る家。部屋の中には建設中に出てきた遺跡が保管されていたり、冷凍漬けのマンモスがいたりとファンタジー要素がたっぷり。しかし、その一方で3年分ほどの食糧が蓄えられる備蓄庫があり、風呂は地熱を利用できる仕組みになっているといった実用的な面も。

 こんな風に、空想がほどよく入り混じっているため、読者は未知の世界を主人公たちと一緒に冒険しているような気持ちになれる。次はどんな家や部屋を楽しめるんだろうとワクワクし、ページをめくる手が止まらなくなってしまうのだ。

 どこか禍々しく、アーティスティックな物件からは作者の画力がひしひしと伝わってくるのだが、それを強く感じさせられたのが、ラストに描かれている「サイケな家」。全ページフルカラーで描かれているこのサイケな家は、これまでに出てきた物件とは違う印象を与え、読者を引き付ける。この家では主人公が絶体絶命の危機に陥るので、ストーリー的にも目が離せない。

 ちなみに、個性豊かな家を見た主人公が契約をためらう理由が、ごく普通である点もユニークだった。「日当たりが全くない」や「台所が小さすぎる」と言う主人公にクスっとさせられ、もっと他に問題点はたくさんあるでしょ……とツッコミを入れたくなってしまう。回が進むごとに不動産屋の意外な能力も明らかになっていくのでそちらも要チェックだ。

「いい物件」とは、どんなものなんだろう――。そう考えながら、「いえめぐり」という名の冒険を楽しんでみてほしい。

文=古川諭香