世界を駆け巡る超大作最新シリーズ、舞台はシチリア島からパリへ!『ツーリング・エクスプレス ~ノートルダム編~』

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公開日:2021/1/31

ツーリング・エクスプレス ~ノートルダム編~
『ツーリング・エクスプレス ~ノートルダム編~』(河惣益巳/白泉社)

 海外旅行が大好きなのに、海外に行けない。いつもならのんびり旅をしているはずの冬休みもお正月も、ずーっと家の中にいた。「旅行したい、海外行きたい!!」と爆発寸前のあなた、今こそ、おうちにいながら旅をしている気分になれる傑作コミック、『ツーリング・エクスプレス』を読んでみては?

 登場人物たちが世界を駆け巡る本作の舞台は、最新刊『ツーリング・エクスプレス ~ノートルダム編~』(河惣益巳/白泉社)で、シチリア島からパリへと移る。

 一流の殺し屋・ディーンと恋仲になり、刑事の職を辞したシャルル。今は拠点としていたパリを離れ、愛しいディーンの“仕事”のために、世界を転々とする日々だ。ところが、ノートルダム寺院炎上の悲報を受けて、シャルルは急遽、ディーンとともにパリに戻る。そこでシャルルが目にしたのは、幼いころから慣れ親しみ、永遠に変わらないと信じていたノートルダムの、無残に変わり果てた姿。シャルルにとって、いつもどっしりとそこにある大聖堂は、大きな心の拠りどころだったのだ。

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 被災したノートルダムのありさまに、強い喪失感を覚えるシャルル。そんな彼に、育ての父であるエドアールが声をかける。彼がオーナーを務める劇団“ラ・ブリリアント”のサロンで、ノートルダム再興のためのNGOを立ち上げたというのだ。シャルルはエドアールの誘いに乗って、“ラ・ブリリアント”のサロンに赴く。旧友たちとの再会をよろこぶシャルルだが、しかしその場で、先日入団したという男を紹介されて仰天した。“ラ・ブリリアント”の新人俳優は、シャルルたちと浅からぬ縁のある男──整形し、ディーンに顔立ちを似せたトニー・ジョンだった。

 一方、ディーンには、謎の女の影がつきまとっていた。実体を伴わず、どんな場所にも自在に現れる黒髪の女に、彼はノートルダム再興の鍵となる“あるもの”を託されるのだが……?

 ノートルダム大聖堂の火災については、作中でも、わたしたちの生きる現実の世界でも、詳しい出火原因がわかっていない。はっきりとした“敵”が見えない災難だ。変わらないと信じていたものが崩れ落ちてしまったのに、その怒りを、悲しみを、ぶつけられる相手がいない──シャルルとディーンが置かれている状況は、土地も立場も、フィクションと現実の壁さえも飛び越えて、現在、見えないウイルスに脅かされているわたしたちの日常に重なる。だからこそ、シャルルの祈りの切実さは、わたしたちの内側にまで深く染み入ってくるのだろう。

 本作の魅力である、世界の政治や経済、文化などを幅広く扱う重厚なストーリーは、最新シリーズでももちろん健在だ。被災後とはいえ端々にその威容をのぞかせるノートルダム大聖堂、そしてパリの街並みは、お出かけ欲もしっかり満たしてくれる。約40年の歴史を持つ超大作、ファン待望の最新刊。外出しづらいこのご時世、既刊とあわせて、世界中を旅する気分でページを繰るのもいいだろう。

文=三田ゆき