少年たちはなぜ非行に走るのか。話題のベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』が漫画化

マンガ

公開日:2021/2/9

ケーキの切れない非行少年たち
『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治:原作、鈴木マサカズ:漫画/新潮社)

 2019年7月、児童精神科医によって書かれた新書が話題になった。タイトルは『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治/新潮社)。「ケーキの切れない」はケーキを等分に切ることができない認知力の弱さを指す。大反響を呼んだこの書籍は累計60万部を突破した。

 2020年12月、満を持して『ケーキの切れない非行少年たち』のコミカライズ版が刊行された。ノンフィクション『「子供を殺してください」という親たち』のコミカライズ版を描いた漫画家・鈴木マサカズさんの手によって、深刻な社会問題が漫画で表現されている。

 主人公の精神科医・六麦克彦(ろくむぎ・かつひこ)は少年院で受刑者を診察している。彼が診察するのは「知的障害またはその疑いのある者及びこれに準じた者で処遇上の配慮を要する非行少年」だ。

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 1巻のほとんどを占めるのは軽度知的障害のある少年・田町雪人(たまち・ゆきと)のエピソードである。万引きを重ね中学校卒業までを児童自立支援施設で生活し、その後、建設現場で働くようになるも無免許運転、万引き窃盗、無銭飲食で少年鑑別所に入所した田町は、診断の結果軽度の知的障害が判明して少年院に送致された。

 彼は少年院での集団生活や六麦の診察を経て反省し、模範生として出院する。

“僕は もう二度と
誰も悲しませたくありません”

 田町のこの言葉に嘘はなかっただろう。ところが出所から四年後、彼は殺人を犯してしまう。

 田町の殺人事件を知った六麦は衝撃を受けるが、田町にとって少年院よりもこの社会のほうが生きにくかったのではと分析し、看護師にこう話す。

“でも みんなが田町雪人みたいになるわけじゃないし
我々は我々のできることを 頑張るしかないと僕は思う”

 殺人事件の描写に著者の主観は一切入っていない。田町が抱える問題と凶悪犯罪を漫画にして描きつつ、「これに対して、あなたはどう思いますか?」と読者に問いかけているようだ。

 1巻終盤からは女子少年院に入院した門倉恭子(かどくら・きょうこ)のエピソードが始まる。凶悪犯罪は凶悪犯罪として描きつつ、「門倉がなぜ罪を犯したのか」に焦点があてられる。

 田町や門倉によって人生を壊された被害者の身になると、いたたまれない気持ちになるだろう。だが、そこで思考停止してしまうと、同じような事件が再び起きてしまう。

「認知力の弱さが原因となっている犯罪は、どうすれば防げるのか」

 読んだ後に読者一人ひとりが考えられれば、少しずつでもこの社会問題は改善に向かっていくのではないだろうか。

文=若林理央