「キノの旅」コンビが描く新たな世界とは?『レイの世界 ―Re:I― Another World Tour』はどんな現場もやりきる新人タレントの物語

文芸・カルチャー

公開日:2021/1/30

レイの世界 ―Re:I― Another World Tour
『レイの世界 ―Re:I― Another World Tour』(時雨沢恵一:著、黒星紅白:イラスト/ドワンゴ:発行、KADOKAWA:発売)

 ユキノ・レイは芸能事務所に所属する15歳の新人タレント。“現場”に呼ばれ、ときには歌い、ときには役者として演技する。ただその現場と仕事が普通ではなく……。

『レイの世界 ―Re:I― Another World Tour』(ドワンゴ:発行、KADOKAWA:発売)は名作「キノの旅」シリーズの作者二人が再びタッグを組んだ作品である。著者である時雨沢恵一(しぐさわ けいいち)とイラスト担当の黒星紅白(くろぼしこうはく)が生み出す新たな“世界”とは?

新人タレント、ユキノ・レイ

「私は女優と歌手になりたいんです!」主人公のユキノ・レイはとある芸能事務所に所属するタレントである。ある日、マネージャーの因幡(いなば)が初めての仕事を取ってきた。それは、小さな町の広場にある特設ステージで歌うことだった。

「はい! 社長! ユキノ・レイ! 初仕事! 張り切って行ってきます!」

敬礼こそしなかったが、机の前で、そして直立不動で溌剌と答えたのは、十五歳の女子高生。
身長は百五十センチほど。白いワンピースの、右胸の位置に大きな青いりボンが目立つ制服を着て、腰まである長い黒髪をカチューシャで留めている。

 レイは歌や演技が大好きで、人を元気づけられる“有名な”役者や歌手になるのが夢。素直で明るい性格で、因幡の取ってくるどんな仕事も前向きに取り組み、やりきる。たとえ言葉が通じなくても精一杯に歌い、ときには役者として「結婚詐欺」? の片棒を担ぐために男性に扮し、リアルすぎるほどの“死ぬ演技”さえもやってみせる。

 因幡の取ってくる仕事の現場は、いつもレイの想像を超えてくる。戸惑いつつも、彼女はそれらの仕事に一生懸命、真摯に向き合っていく。初めは心配していた因幡も「行くぞ、仕事内容は車の中で」と適当……いや、かなりスピーディーに現場へ連れていくようになる。

 本作は役者と歌手になりたい少女の、数奇な芸能生活を描く物語だ。

「どうしてそんなことができるんですか?」「できるからだよ」

 メインの登場人物は主人公のレイを含めて3人。

 まずレイに同行するマネージャー因幡。染めたのか生まれつきなのか、鮮やかに白い短髪。背丈は155センチ程度と小柄なうえ、クリッとした大きな両目。まるで外国人の少年のような童顔で、15歳のレイより年下に見えるという。

 だが話しぶりはしっかりしていて、常に落ち着き超然とした雰囲気だ。レイによく「どうしてそんなことができるんですか?」と言われる。すると彼はこう返す「できるからだよ」。

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 そしてレイが所属する事務所名にもなっている、女社長の有栖川(ありすがわ)。タイトなスーツに身を包み、40代と公表しているが実際よりかなり若く見えるという人物。快活な性格でいつも元気にレイを仕事に送り出す。おそらく大好きなのだろうコーヒーを常に淹れて、いつも二人にすすめている。

 因幡とは付き合いが長いようで、彼のことは“よく知っている”ようす。

 このたび発売の1巻を読めば、本作のタイトルの意味は理解できる。ただいくつかの謎が示唆され、伏線が張られている。有栖川と因幡は、なぜこのような芸能事務所をやっているのか。現状多くの謎が残されている。

『レイの世界』は、株式会社ドワンゴのオリジナルIP事業を手掛けるブランド「IIV」(トゥー・ファイブ)の書籍として出版される。「IIV」には時雨沢氏をはじめ、「ロウきゅーぶ!」の蒼山サグ氏、「デュラララ!!」の成田良悟氏などが参加しており、ライトノベル好きには楽しみなブランドだろう。

 本作は一話完結の短編連作シリーズ、気になる物語のこれからにも期待したい。まずはレイが歌い演じる、不思議な現場を確かめてみてほしい。

文=古林恭