チームワーク最悪の高校生が挑む100×4リレー…青春をかけた感動のスポーツ小説

文芸・カルチャー

公開日:2021/1/30

ヨンケイ!!
『ヨンケイ!!』(天沢夏月/ポプラ社)

 400メートルリレー、いわゆる四継(ヨンケイ)。「日本のお家芸」などと形容されるが、その難易度はかなり高い。どうして個人の100メートル走では海外勢に圧倒されがちな日本が100メートル×4のリレーで大きな力を発揮するかといえば、バトンパスがスムーズというのが一つの理由だ。スピードを落とさずにいかにバトンの受け渡しをするか。それを極めるには、バトンを渡す側・受け取る側がいかに息を合わせるかが重要となる。何よりも大切なのは、チームワーク。きちっとバトンパスのタイミングが合えば、個々の走力以上の結果を残すことだって可能な競技なのだ。

『ヨンケイ!!』(天沢夏月/ポプラ社)は、そんな400メートルリレーに挑戦することになった4人の男子高校生を描いたスポーツ小説。自然豊かな離島・大島を舞台に、高校生たちが悩み苦しみながら走り続ける。はじめは対立してばかりいたメンバーも、本音でぶつかりあっていくうちに、次第に変化し始める。リレーを通して確実に成長を遂げていく彼らの姿は、まさに青春そのもの。4人のバトンが確かに繋がるとき、感動に胸があつくなる。

 慢性的な部員不足に悩む大島の渚台高校陸上部は、転校生の脊尾照が入部してきたことで、奇跡的に男子4人のスプリンターが揃った。顧問は、リレーに挑戦することを提案。個々人の走力は申し分ないため、都大会突破、関東大会出場も狙えるのではないかというのだが、いざ練習をはじめてみると、チームの人間関係は最悪だった…。

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 天才的なスプリンターだった兄への屈折した思いを抱える第一走・受川星哉。自信がなくスランプを抱えているエース、第二走・雨夜莉推。強豪校から逃げてきた転校生、第三走・脊尾照。リレーへの思い入れが強いばかりに保守的で頭でっかちな部長、第四走・朝月渡…。物語は、章ごとに、4人のスプリンターそれぞれの視点で進んでいく。それぞれに悩みがあり、全員が複雑な思いをバトンに乗せて走ってしまっている。陸上やリレーに限らず、スポーツは、他人との戦いである以前に、自分自身との戦いなのだろう。

 たとえば、受川星哉は、自分が一走として指名されたことを不服に感じていた。受川からすれば、一走は、エースの二走へバトンを繋ぐだけの役割。スランプに陥っている雨夜より自分の方がタイムはいいのに、どうして一走を走らなければならないのか。苛立ちが募った受川はついにそれを雨夜にぶつけてしまう。だが、受川が一走を任されたのには、彼なりの強みがあるためだ。兄に比べて陸上の才能がないことを自覚し、それ故に誰よりも努力を重ね、理論的に陸上を学んできた受川は、次第にどうすれば上手くバトンパスができるか、その方法を見出し始める。そして、そんな彼の姿にチームメイトは影響されていく。

「綺麗に、スムーズに、無駄なく渡そうと思ったら、結局お互いのことちゃんと知るしかない。そいつのくせとか、性格とか、その日の調子とか……そういうの全部わかってて、初めて完璧なバトンパスができるんだ。そいつのこと、なんも知らなくて、本気のバトンなんか渡せねぇよ。チームメイトのこと知らずに、本物のリレーなのかできねぇよ」

 次第に彼らは自分自身と向き合い、仲間とも向き合えるようになっていく。バトンパスがピタッとハマる瞬間がくる。チームがひとつにまとまった時の爽快感、達成感、確かな手応え…。団体スポーツの醍醐味が詰まった本作、今青春真っ只中の人も、遠い昔に経験したという人も、さわやかな気分が味わえる感動の物語だ。

文=アサトーミナミ