「今月のプラチナ本」は、宮崎夏次系『あなたはブンちゃんの恋』

今月のプラチナ本

更新日:2021/2/8

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『あなたはブンちゃんの恋』(1)

●あらすじ●

恋に不器用な主人公・ブンちゃん、彼女が想いを寄せる三舟さん、そして事故で亡くなりブンちゃんのパスケースに転生した二人の友人・シモジ。女×女×幽霊の三角関係で描かれるのは、恋する気持ちの眩しいほどの純粋さと不器用さ。交わらない登場人物たちの恋は、いったいどこに向かっていくのか――。

みやざき・なつじけい●『モーニング・ツー』2010年40号よりデビュー作『夕方までに帰るよ』を連載開始。2作目の『変身のニュース』(短編作品集)が、第17回(13年)文化庁メディア芸術祭マンガ部門「審査委員会推薦作品」に選出。3作目となる短編作品集『僕は問題ありません』が、「俺マン2013」トップ10入り&宝島社「このマンガがすごい!2014」にランクイン。他の作品に『培養肉くん』(KADOKAWA)、『なくてもよくて絶え間なくひかる』(小学館)、『と、ある日のすごくふしぎ』(早川書房)など。

『あなたはブンちゃんの恋』書影

宮崎夏次系
講談社モーニングKC 650円(税別)
写真=首藤幹夫
advertisement

編集部寸評

 

破壊に限りなく近い「好き」

ブンちゃんの「好き」は、ずっと視線だ。好きな人に好きだと言えない。ひたすらに見ている。「見てた 三舟さんのこと 12時くらいから ここで」(描かれた時計は2時過ぎ)。見つめ過ぎて、ブンちゃんの視線は、その人の目に映る自分へと跳ね返る。「その人の目の中に 映る自分のことだけは 大切に思えた 自分をはじめて 好きになれると思った」。自分の中を堂々巡りする視線は、どこにもたどり着かない。ただただ渦巻き、増幅され、嵐のように破壊する。何を? 2巻以降も目が離せない。

関口靖彦 本誌編集長。帯に「どうしたって吹き出してしまう」とあるが、自分には笑うところゼロでした。狂的な「好き」と美しく輝く絵に圧倒されっぱなし。

 

ブンちゃんに幸あれ!!

ブンちゃんすごい。これにつきる。ブンちゃんはかわいいんですよ、見た目が。でもめちゃくちゃなんですよ、行動が。好きな人を想うのが、これほど激しいのかと。読み進めるうちに激しすぎて、ブンちゃんの心が、じゃなくて肉体までも木っ端みじんになってしまうのではと危惧するくらい……。でもピュアでかわいい恋だとも思う。そう思わせてくれる切なさ自体にさえ、導火線がついていそうな、なんとも厄介な恋物語なのです。ブンちゃんは幸せになれるのかなぁ。なってほしいなぁ。

鎌野静華 年末に読んだ2021年の占い、1月に入ってあたるあたる。日付までぴったりで怖いほど。今年はよい変化の年になるそうなので、信じてみよう!

 

「ブンちゃんね〜」と呼びたくなるその名前

ブンちゃんは顔に出やすいタイプだ。大好きな三舟にヒゲが生えていることを発見し、彼女が放つ「また」の一言に歓喜し、雑誌のコラムを見て試した「代わり」はやっぱり代わりにならず、尾野山蘭なる尼僧の著作を手にとり、やっぱり三舟を回想する。その全ての瞬間、ブンちゃんの表情は一つとして同じものがない。カバーにも描かれているが、彼女の瞳に映る世界は明暗がくっきりして、モノクロの中に一つだけ差し色を感じるような、豊かな立体感が広がる。先の読めない展開含め、脱帽。

川戸崇央 本誌144Pからは「男くさいマンガ特集」。自粛期間で読んだサラリーマンマンガからラブコメ、裏社会ものまで、いつもとは違う風味で集めてみました。

 

恋すれば、皆どこかで狂ってる

『変身のニュース』以来ファンで、作品を読む度に世界観がぶっ飛んでいては、宮崎さんの脳内はどうなってるんだろう?と毎回しびれるけれど、今作は特に強烈にのめり込んだ。ブンちゃんの恋からの行動は異様に見えるようで、でも私は少し懐かしい。すべての時間を行動を生活をその人のためにしていた時期があった、勝手に。完全に狂気。ブンちゃんと同じ。自分はおかしいし、それも分かってはしんどいし、でも好きな人の一言で一気に輝くあの世界を知る「恋」は、やっぱり尊い。

村井有紀子 来月号で『騙し絵の牙』特集。速水編集長な大泉洋さんが裏表紙を飾ります! また中村倫也さん初エッセイ集3月18日発売! 忙しいけど恋したい〜

 

恋愛それは命をおびやかすもの

ブンちゃんは恋愛そのものみたいな女の子だ。儚いのに強靭で、混沌としてるのにまっすぐで、そして凄くさみしい。好きな人と久しぶりに会ったブンちゃんが、電車で帰っていく相手を見送るシーンが最高。「帰る人のうしろ姿は見てはダメなんだよ/ほらそんなに苦しいでしょ」。苦しみに自らつっこんでいく姿は傍から見たらコワいかもしれない。でも恋愛ってそういうもんだよなと思う。命をおびやかすような怪物とひとりぼっちで戦うブンちゃんは、とてもきれいで、目が離せない。

西條弓子 ブンちゃんが好きな人のドッペルゲンガーを探す話があるのですが、恋愛中は脳がバグっているので、マジで見つかったりします。

 

ずっと好きでいてもいいかな

ブンちゃんは過剰だ。実らないだろう三舟さんへの片想いを忘れるため、全然興味のない人とつき合ってみたり、三舟さんのドッペルゲンガーに会いにグリーンランドまで行ったかと思えば、帰り道で石ころになったり。ブンちゃんは突拍子もない行動を取り続ける。あまりに振り切りすぎていて、押し寄せる笑いの波が引いたあとに、彼女を突き動かしている強い想いが現れて、苦しくなる。カバーの目の光が印象的だったけれど、ラスト3ページの瞳に映るブンちゃんも、とても美しい。

三村遼子 AirPods Proを購入。これまでiPod classicで昔の曲ばかりくり返し聴いていたので、Spotifyで知らない歌がどんどん流れてくるのが新鮮です。

 

恋に不器用なブンちゃんが愛おしい

狂おしいほどの恋、ブンちゃんの恋はまさにそれだ。ブンちゃんは三舟さんが好きすぎるあまり異常とも思える行動をとるけれど、彼女の行動の根底にはどこか身に覚えのある感情や痛みがある。嫌われる前に諦めたい、諦めようとしているのに諦めきれない、拒絶されたくない……。人を好きになることは痛くて切なくて、その気持ちが強いほど私たちを狂わせる。でもきっと、そんな恋は簡単にできるものじゃない。強すぎる想いに振り回される、そんなブンちゃんが愛おしく、眩しかった。

前田 萌 お気に入りのアニメ作品を繰り返し一気見しています。歳をとると泣けるポイントって変わりますよね。今は青春を謳歌している若人に弱いです。

 

何故か心洗われるクレイジーさ!

主人公のブンちゃんは、どうしようもなく不器用だ。いや、「不器用」という言葉では物足りない。彼女が三舟さんを想うあまりとってしまう奇行の数々は、劇的な作画の効果も相まって最早怖い。しかし、そんな彼女が時折とてつもなく眩しく見えるのだ。私達はいつから、自らの恋心にブレーキをかけてしまうようになったのだろう。格好悪くても、拗らせててもいいじゃない。ブンちゃんのクレイジーさは、そんな風に、心の奥底に秘めている必死な恋心を肯定してくれるような気がする。

井上佳那子 年始のまったりモードから脱するのに時間がかかったこの1か月。お正月って、なんであんなに空気がふわふわするのでしょうね。もう2月か……。

 

読者の声

連載に関しての御意見、書評を投稿いただけます。

投稿される場合は、弊社のプライバシーポリシーをご確認いただき、
同意のうえ、お問い合わせフォームにてお送りください。
プライバシーポリシーの確認

btn_vote_off.gif