国外追放されたのに――!? “ワケあり”悪役令嬢と器用な旦那様のパワフルで幸せな新感覚ラブコメディ

マンガ

公開日:2021/2/6

追放悪役令嬢の旦那様
『追放悪役令嬢の旦那様』(古森きり:原作、なつせみ:漫画、ゆき哉:キャラクター原案/白泉社)

 自分のことを尊重し、信じてサポートしてくれる人がそばにいるのはありがたい。それが愛する人であるならなおさらで、きっとその人のために心を尽くして頑張ってしまうと思うのだ。

 古森きり原作、なつせみが漫画を担当した『追放悪役令嬢の旦那様』(ゆき哉:キャラクター原案/白泉社)は、交際0日結婚にもかかわらず、そんな理想の夫婦関係を築き上げた悪役令嬢と、王太子たちにパシリとして使われていた貴族の青年の物語だ。本作は、小説家になろうで日間・週間1位&ツギクル小説大賞受賞作がコミック化されたもの。これまでの「悪役令嬢」モノとは一味違い、“訳あり”の悪役令嬢ではなく、一見クールな旦那様の視点で話は進行する。

 物語は、翡翠の髪と青みがかった緑色の瞳をした、美しく身分の高い公爵令嬢・エラーナが、王太子・アレファルドから身に覚えのない罪で婚約破棄&国外追放を言い渡されるところから幕を開ける。

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追放悪役令嬢の旦那様

追放悪役令嬢の旦那様

追放悪役令嬢の旦那様

 王太子は、リファナという、決して蔑ろにはできない事情を持つ新しい女を婚約者に替えようと算段していた。窮地に立たされたエラーナを見かねて、手を差し伸べた貴族の青年・ユーフラン。彼も翌日にはエラーナと共に隣国へ国外追放され、結婚まで強いられる。だが、実は幼い頃からエラーナに横恋慕していたユーフランは、冷めた態度を貫きながらも、内心は喜びでいっぱいで――!?

 意外にも、追放先の隣国では、そこで暮らすユーフランのにぎやかな親戚に歓迎される。牧場跡地を整備して暮らしはじめ、2人の天才的な「才能」を武器に、たくましく生き抜く様子が、ちょっぴり甘く、テンポ良く描かれる。

 実は、ユーフランはかなり優秀な「作り手」で、これまで王太子や取り巻きの貴族に利用され、ボールペンやシュシュ、石鹸やドライヤーなど、女性が喜ぶものを無報酬で作り続けてきた。ユーフラン自身は自分の技術を「素人に毛の生えた程度」としか思っていないが、実際、彼が作るものは今の技術者では再現不可能なレベルの高いものだった。

 それを見たエラーナは、ひどく驚き、そして今の時代にはまだ存在しないコンロや冷蔵庫なども作れないかと、「アイデア」を出しはじめる。どうやらエラーナ自身も相当な“訳あり”の様子で、

「フラン見てて 貴方の才能の本当の価値をわからせてあげる」

 …と、高慢ちきなはずのお嬢様が、突然商才を発揮し、貴族や商人たちに、冷蔵庫などの設計図や買取の権利を高額で持ちかけ交渉を成立させる。ユーフランに正当な報酬が入る仕組みを作り、世の中さえも彼の才能によって、大きく変えようと大胆な行動に出るのだ――。

追放悪役令嬢の旦那様

追放悪役令嬢の旦那様

追放悪役令嬢の旦那様

 ユーフランは、自分にこんな才能があったと教えてくれたり、王太子や貴族に才能を利用されていたことを猛烈に怒ってくれたり、自分とは真逆で、いつも情熱的に生きるエラーナを心底愛しており、これからはエラーナのためだけに、彼女の欲しいものだけを作っていこうと心に誓う。

 交際0日結婚で夫婦になった2人が、まだ甘々な雰囲気には遠いものの、お互いを支え合い、着実に未来を切り開いていく様子はエネルギッシュで胸が高鳴った。なんとなく想像はつくものの、エラーナの秘密や、ユーフランに忍び寄る黒い影、パワフルで個性豊かで温かな隣国の職人たち…。これまで才能を見過ごされてきたモブポジションの旦那様・ユーフラン目線の、冷静かつ情緒的な語りで、淡々と進むラブコメディは、まだまだ続きが気になって仕方がない。

文=さゆ