まだ読んでいない人が憎い! 少女マンガの地位をも引き上げた名作中の名作

更新日:2013/12/2

『ガラスの仮面』や『スラムダンク』…各ジャンルにおいてマスターピースと呼ばれる作品の数々。

もしもあなたがまだそれらを読んだことがないのだとしたら、私はそれが羨ましくて仕方ありません。『ポーの一族』もそんな作品のひとつであり、少女マンガ史上に打ち立てられた金字塔であります。

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タイトルにもある「ポーの一族」とは「バンパネラ」のこと。平たく言えば吸血鬼なのですが、一般的にイメージされるような吸血鬼よりまったくスマートで、そしてなんともお耽美であります。それは主人公のエドガーとアランが、美しい少年の姿をしているせいもあるでしょう。歳を取ることのないバンパネラは永遠に、何百年も何千年も、同じ姿のまま生き続けます。

1700年代中頃を起点として始まった物語は、最後は連載当時の1970年代、つまり現代にまで到達します。舞台もイギリスとドイツを行き来しながら、物語世界はタテにもヨコにも拡大して行くのです。もしかしたらバンパネラは今この時代にも、もしかしたらこの日本にも存在するのかもしれない--リアルタイムで読んでいた少女たちは、きっとそう夢想したのではないでしょうか。

この圧倒的な連作集を描いた当時、萩尾先生はまだ23歳。作品は瞬く間に評判となり、萩尾先生の評価のみならず、少女マンガ全体の地位をも引き上げたという記念碑的作品であります。まったくその想像力、表現力、構成力たるや舌を巻くほかありません。

『百鬼夜行抄』でおなじみの今市子先生が「グレンスミスの呪い」と呼んで畏怖した名作「グレンスミスの日記」(たったの24ページで人の一生が描けるなんて! と今先生は驚いたそうです)をはじめ、1作1作が凡百の作家の長編にも匹敵する密度。

ああ、本当に本当に、まだ読んでいないあなたが憎いほど羨ましい…。

主人公・エドガーとアランの出会いのシーン。突然の事故と戸惑い、警戒心、そしてお互いへの興味などが見事に表現された1ページ。ああ天才のワザ…

エドガーの妹・メリーベル。メリーベルが登場するコマはすべてが美しくてうっとりしてしまいます

バンパネラは鏡には映りませんが、心掛け次第で映っているように見せることができます

そして定番の十字架ネタですが、バンパネラは別に十字架を恐れません

「ときをこえて遠くへいく?」というメリーベルの言葉は、あなたもポーの一族となって不老不死とならないか? という誘いの言葉。なんという距離感を湛えたマンガでありましょう!

そしてバンパネラは脈がありません。それを医師に見破られてしまいます

銀の銃弾で打たれたバンパネラは塵となって消えてしまいます。ここからエドガーの放浪の旅が始まります

これが今市子先生が畏れた「グレンスミスの日記」。今先生の記憶では70ページほどの壮大な作品だったのですが、数えてみたら24ページしかなく、そのことに驚いたというお話です。萩尾先生には『半神』をはじめ素晴らしい短編がたくさんあります。妙手の技が詰まった一篇です (C)萩尾望都/小学館
※画面写真はeBookJapanのものです