母と娘で読める恋ラノベ。結婚は物語のゴールじゃない

文芸・カルチャー

公開日:2021/2/9

十三歳の誕生日、皇后になりました。
『十三歳の誕生日、皇后になりました。』(石田リンネ/KADOKAWA)

 幸福な恋の物語は、主人公の恋が実るところで終わる。ライトノベル、特に少女向けの多くのレーベルでは、はれて恋人になる、もしくは結婚するところがラスト。知的教養人が馬鹿にしそうなシンデレラストーリーの変奏曲だったりはするのだが、現実を忘れる夢のひとときは何と言われようと素敵な時間だ。

 本当は大好きなジャンルなのだが、最近はとんとご無沙汰。理由は、自身の年齢的な照れというか、こうした本をレジに持っていくのが自意識過剰ながら大変に恥ずかしいから。というわけで、中2の娘の本棚からこっそり借り出したのが『十三歳の誕生日、皇后になりました。』(石田リンネ/KADOKAWA)だ。

 さてこの作品、13歳の莉杏(りあん)が皇后になるところから物語が始まるのがちょっと変わっている。作品の舞台は中華風皇室。夫である皇帝は、悪政を正すためにクーデターを起こして皇位を乗っ取った18歳の暁月(あかつき)。皇帝の座には結婚をしていないと就けないため、たまたまちょうどいいところにいた莉杏を妻にする。物語冒頭で結婚というのは、恋愛ライトノベルにしては珍しい。

advertisement

 物語は、形の上では夫婦になったものの他人同士である2人が、お互いを知っていくこと、また、それぞれが自立した大人へと成長していく姿が描かれていく。政治の駆け引きだったり、暗殺未遂だったり、後宮の人間関係だったりと、その都度起こる事件や問題を解決しながら、少しずつ成長しお互いを理解し合っていくのだ。莉杏の真っ直ぐさや向上心と賢さ、そして皇帝暁月のちょっとチャラめ(?)な態度に隠れる優しさと政治手腕は、どの年代の読者にも好感度が高いだろう。

 実はこの作品、同じく石田リンネさん作「茉莉花官吏伝」シリーズの隣国の物語。こちらを知っていると、茉莉花の登場人物が出てくるシーンでは物語同士のリンクに興奮するはず。でももちろん、本作だけでも十分に楽しめるので心配はいらない。また本作は、可愛らしくかつ格好良い、繊細なタッチのイラストも見逃せない。担当したのは人気ゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」のキャラクター・鶴丸国永や物吉貞宗の絵師をされたことも記憶に新しい、イラストレーターのIzumiさんだ。

 本作は、やはり結婚後の話だから、読者の年齢によって面白さのツボがさまざまだろう。主人公たちの成長を応援するもよし、巻き起こる事件の真実を推理するもよし、わが中2娘のように暁月に恋してドキドキするもよし。年上のイケメンさんの余裕のある振る舞いは、確かに格好良い。娘よ、わかるぞ。こちらにとっては懐かしい恋心だ。

 娘には勝手に持ち出したことを詫びた後に、思うところを語った。すると向こうも、負けず劣らずの感想を述べてくる。それにしても、母と娘で対等に感想を言い合える作品って、あまりないのでは。たまにはこんな読書体験の共有もいいものだ。

文=奥みんす