雪の降る街で起きた女子高生殺人事件。天真爛漫な少女が抱える闇とは?

マンガ

公開日:2021/2/20

adabana-徒花-
『adabana-徒花-』中巻(NON/集英社)

 雪の降る街で起きた女子高生殺人事件を、自首してきた少女ミヅキの視点で描いたのが『adabana-徒花-』(NON/集英社)上巻だった。彼女の供述は謎めいていてかみ合わない部分もある。もしかすると彼女は事実と嘘を交えながら話しているのではないか……読者のほとんどがそう思ったはずだ。

 中巻では上巻から月日が半年ほど遡る。視点も被害者の女子高生マコに切り替わる。ミヅキにとってマコは特別な存在だった。彼女といるときだけ、おとなしく鬱屈した感情をもてあましているミヅキは心が軽くなる。しかし、そう思っていたのはミヅキだけではなかったことがはっきりとする。マコにとってもミヅキは特別な存在だった。

 明るく天真爛漫で、友人も多いマコ。しかし彼女は父が起こした事故によって母を亡くし、父は働けなくなった。現在は生活保護を受けている。それをからかうマコの高校の友人たちに、「失礼じゃない?」と顔をしかめてはっきりとミヅキは言う。

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“よく知りもせず他人の家の事情をネタに笑えるなんてどうかしてるわ
死ねばいいのに”

 10代の頃、周囲と異なる意見を言って疎外されるのが怖くて、いやいやながら周りの友だちに合わせた経験のある人は多いだろう。だがミヅキは違う。マコを大切に思い、彼女を傷つける人を許せない。そんなミヅキは学校では異質な存在で嫌われているが、このことがあってからマコはミヅキを信頼するようになる。

 上巻ではわからなかったマコの苦しみが痛ましく描写されているのもポイントだ。彼女は叔父のラーメン屋でアルバイトをしている。店が営業を終えると、下着姿になりエロティックなポーズで叔父に撮影されることを強いられていた。すべては父の借金を返すため。マコは心配をかけまいと勘のいいミヅキや周囲にそれを言わず、悩みのなさそうな明るい少女として振るまう。

 純粋で一生懸命生きているマコが暁裕樹(あかつき・ゆうき)に出会い、とんでもないことをされる場面は目を伏せたくなるほど辛い。

“彼は本当にやさしいの?”

 ミヅキは基本的に無表情だ。だがマコのことになると、表情が変化する。

 彼女は自分の親友に何が起きているか知らない。だが察するのだ。マコが傷ついていると。「ミヅキ、マコを助けてあげてほしい」と読んでいる私まで願ってしまう。

 どうしてマコに次から次へと災難が降りかかるのか。彼女はまだ18歳なのに。読者の私たちは、上巻で最終的にマコが死んでしまうことも知っている。

 ミヅキの唯一の救いはマコだった。そしてマコの唯一の救いはミヅキだった。

 中巻の終盤、ミヅキが上巻でついた大きな嘘のひとつが明らかになる。そこから、物語がマコの死にどう向かっていくのか。結末を迎えるのは寂しい。そのくらいミヅキにもマコにも愛着がわいているのだが、それでもやはり、早く結末を知りたい。

文=若林理央