「あれ、この世界って…もしや」壁の先は底なしの空間! Tポーズの村人…狂気に立ち向かい仕事をし続ける男を描く掟破りのメタ・ファンタジー

マンガ

公開日:2021/2/14

『この世界は不完全すぎる』(左藤真通/講談社)
『この世界は不完全すぎる』(左藤真通/講談社)

 クレボーン島にあるベイル王国。その辺境に現れた調査隊「王の探求者」(キングス・シーカー)の一員、ハガ。その目的とは?

『この世界は不完全すぎる』(左藤真通/講談社)は、剣と魔法の王道ファンタジー世界が舞台。そこで出会った仲間たちの冒険を描く。ただ“一見ライトだが、実は重い”というのが本作のポイントだ。いくつかの謎が少しずつ、明かされていく。本稿のライターは、サスペンス要素もはらんだ物語だと感じた。

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世界の綻び(ほころび)を調べて直す! ハガの前に現れる敵とは?

 ベイル王国はクレボーン島に存在する小国のひとつ。その王により極秘に組織された精鋭たちが「キングス・シーカー」。彼らは各地でこの世のあらゆる事象を調べており、選りすぐられたエリートと噂されていた。そんな彼ら「探究者」たちは、人々から尊敬を集める存在だった。

 辺境の平和な村で暮らす少女・ニコラは、外の世界をみたことはなく“笑っちゃうくらい同じ毎日”を過ごしていた。だが彼女の村をドラゴンが襲う…。そこに現れたのが「キングス・シーカー」のハガだった。

 彼は各地の“異変を報告する任務”の一環で、ドラゴンに“燃やされ続けた”村を守る。成り行きで村を抜け出したニコラは、ハガを追ってきた。2人は共に冒険を始める。

 ハガはチート能力をもつ、が使うことはない。途中の街でベイル城からきたという剣士に襲われるものの、ハガの機転で相手を“壁を抜けさせて底なしの空間”へ放り出し、難を逃れる。

 2人は人間が全員、両手を横に伸ばした“Tポーズ”の村にたどりつく。そこでアマノと出会う。ハガは、自分と彼がもともと“目的が同じ”であったことを知る。アマノは物語を描き、寝たきりの女性・ルゥに読ませ続けていた。だがそこにも敵が現れて、悲劇が起こる。

 敵に復讐を誓いパーティに加わるアマノ。彼らはベイル城に居座っている敵、“社長”のデバッグ・ストーンと呼ばれる石版を奪い、倒すために旅立った…。

 1話を読んだ時点で「おおっ」と感心し、続きが気になって一気に最新回まで読んでしまった。以下はストーリーのキモになるだろうハガのセリフだ。ぜひ覚えておいてほしい。

たぶんアマノさんは ぼくと同じですね
仕事に没頭することで この世界で正気を保っている…

謎を解き明かし現実という出口を目指す物語

 まずはできうる限り、ネタバレなしに本作を紹介してみた。何度も燃やされる村、すり抜けられる壁と底なしの空間、Tポーズで固まったままの人間、そして城に巣くう“社長”たち。これだけで分かる人は分かってしまうだろうが。

 ワクワクもするが、前述の通り物語が進むにつれて謎が増え、少々残酷とも思える描写もある。諦め、開き直り、“狂気”を前面に出してくる登場人物たち…では主人公は?

「ハガの仕事は不完全な世界の調査と報告、そして目的は出口を見つけること」としか描写されていない。今のところ、非常に生真面目な男でしかない。そんなハガに、ニコラへ乗り移った“何者か”が彼の実直さに感心して、こう語り掛ける。

不完全なままの世界では 理不尽な事態が 生じ続けるからな
一つずつ修正していけば いずれ大きく改善されるだろう

 似たテーマでサスペンス要素を前面に出す物語は過去にあった。ただまずは本作の第1話をWebで読み、他との違い、本作の密度の濃さにぜひふれてみてほしい。

文=古林恭

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