性別を偽り男として士官学校に入学! 少女は正体を隠し、心の傷を乗り越えて才能を発揮できるのか

文芸・カルチャー

公開日:2021/2/17

※「ライトに文芸はじめませんか? 2021年 レビューキャンペーン」対象作品

王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語
『王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語』(森山光太郎/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 名門の士官学校。王国全土から集うエリートたち。その中に紛れた、少年のふりをした少女……。『王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)は、心に傷を負った少女の成長を描いた物語。学園ストーリーであると同時に、壮大な戦記・歴史ファンタジーでもある作品だ。作者の森山光太郎氏は、2018年、史上最年少で第10回朝日時代小説大賞を受賞した実力派。ひとたびページをめくれば、陰謀渦巻く学園の様子と、その中で葛藤する少女の姿に惹きつけられてしまうに違いない。

 舞台は、イスカンダル王国。アリシア・リーヴラインは、故郷・ランス島での内戦の前線で指揮を執り、異母兄率いる軍を勝利へと導いた17歳の少女だ。だが、内戦によってアリシアは父母を失い、心に深い傷を負ってしまう。おまけに、彼女は、辺境騎士でありながら中央に恐れられる兄の代わりに、王都に出仕することになった。それはいわば人質としてだ。王都に人質を置かねば、王は内戦がおきたことに付け込んでランス島へ無慈悲な裁きを下すに違いない。ランス島の平和のため、尊敬する兄のために、アリシアは性別を偽り、兄の名・イェレミアス・リーヴラインを名乗って王立士官学校“黒の門”に入学する。卒業すれば立身出世が約束されるはずの学園生活。だが、入学早々、有力子弟の一派に目を付けられたアリシアは、王家の不興を買った家の人間として蔑まれたり、好奇の目で見られたりしてしまう。アリシアは正体を隠しながら、無事に名門士官学校を卒業することができるのだろうか。

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 内戦で受けたアリシアの心の傷はかなり深いらしい。戦争が終わり、父と母を失ったアリシアは人が変わったようなのだという。元々は勝ち気な性格で、軍を見事に率いた人物であるはずなのに、内戦後は、剣を見れば震え、流れる血を見れば顔を俯かせて涙を流すようになった。内戦後、兄・イェレミアスのそばを離れようとしなかったのも、兄のそばにいれば戦いを避けられると思っていたためなのだろう。すっかり気が弱く臆病になってしまったアリシアが士官学校で、しかも男として生き抜くことはできるのか。入学直後の模範試合では、案の定、戦いを前に震えがとまらなくなるなど前途多難。ハラハラさせられる展開が続いていく。

 だが、そんな彼女には心強い仲間がいる。特に頼りになるのは、アリシアの幼馴染で、本書の語り手となる従者・ジークハルト。すっかり心が弱っているアリシアの支えとなってくれる。アリシアが実力を発揮できなくても、ジークハルトが彼女へ向ける視線はあたたかい。彼女の才能を一心に信じている従者の姿に救われるような心持ちがしてくる。

 ジークハルトが信じる通り、本当は、アリシアには確かな才能がある。そして、それは、誰もがアリシアを無能な人間と思い込んでいる状況下で、突如発揮されるのだ。その秘めた力は、読者をも圧倒するだろう。アリシアの才能が発揮される場面は、実に痛快。力が発揮できないじれったい展開が続いていたが故にかなり爽快な気分にさせられる。

 これからアリシアはますます才能を発揮していくのだろうか。それともまだまだ困難が待ち受けているのだろうか。学園の仲間との今後の関係も気になっていく。本書の続きとなる第2巻は4月に発売予定だというから、続きが気になってしかたがない。あなたもアリシアの活躍を見守ってみてほしい。壮大な戦記と学園ストーリーがかけ合わさったこのシリーズは、これからますます多くの人の話題をよぶに違いない。

文=アサトーミナミ

『王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語』作品詳細ページ

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