広告のコンペってアツいんです! アイディアの力で大企業に挑む世界――『100回泣くこと』の作者・中村航が描く最新お仕事小説

小説・エッセイ

公開日:2021/3/11

広告の会社、作りました
『広告の会社、作りました』(中村 航/ポプラ社)

 日頃テレビや街中で見かける広告。パッと目を引く言葉やデザインで、つい商品を買ってしまった――という経験は、誰にでもあるだろう。しかし、裏方で広告を作る人たちの苦労はあまり知られていない。でも、実はアツい要素が盛りだくさんなのだ。頭を振り絞ってアイディアを考え、競合他社と発注を懸けたコンペに臨む。アイディアが形になり、実際に世の中の人を動かす…。

 小説『広告の会社、作りました』(中村 航/ポプラ社)には、そんな広告業界のおもしろさがぎゅっと詰まっている。著者は、『100回泣くこと』や『トリガール!』など、数々のヒット作で知られる中村航さん。突然会社の倒産を告げられ、路頭に迷う若手デザイナー・遠山健一を主人公に、個人事務所でフリーで働くベテランコピーライター・天津功明とのタッグを描く。ふたりで力を合わせ、大企業との競合コンペに挑むストーリーだ。作品を通して描かれる、広告業界の魅力を紹介していきたい。

言葉ひとつで印象が変わる! キャッチコピーの力

 まずは、言葉の力だ。天津の肩書である「コピーライター」は、ポスターなどに載るキャッチコピーを書く仕事。売り出したい商品やサービスの本質をとらえ、見た人の心に響く言葉を考える。たとえば、作中に登場する美術館のコピーはこんな感じだ。

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二人は、黙ったまま――。

 ただ会場のことを知るよりも、行ったときの姿がよく想像できる。美術館にデートで訪れた男女が、黙って見入るほどの作品がある。これだけで、どんな美術館か気になってこないだろうか?

クライアントのニーズはなんだ? 競合コンペ

 大きな仕事であれば、複数社のコンペで企画を決めることがある。このコンペが、広告業界のいちばんアツいところではなかろうか。売り出したいものがある会社(クライアント)がお題を出し、プロモーションのプランを募集する。時には、商品コンセプトやネーミングなど、根幹部分までコンペで決めることもある。

 本作で健一たちが争うのは、住宅会社の「平屋住宅ブランド」を売り出すコンペだ。「二階建てマイホーム」が主流の中、「平屋住宅ブランド」の魅力をどう伝えるか? 与えられた問いに対して、彼らが試行錯誤しながら答えを探す姿に注目してほしい。

アイディア次第で大企業にも勝てるかも?

 ライバルたちとアイディアを競い合うコンペ。しかし、実際の現場では、純粋なアイディア“だけ”の勝負ではないこともある。たとえば、実績ある大企業は安心感があるし、事前にきっちり根回ししたりもしている。

 それでも、ときに素晴らしいアイディアは、安心感や根回しを打ち破る。事前のやり取りをなかったことにしてでも、その企画をやりたいと思わせればよいのだ。作中でも大手「伝信堂」に決まりかけている中、健一と天津は小さな会社を背負ってプレゼンに向かう。

 本作は、こうした広告業界のアツいところを、見事にストーリーの中に落とし込んでいる。読み終えるころには、健一たちと大きなコンペをひとつ乗り越えたような気分になるはずだ。ぜひ体感して、広告作りの裏側のおもしろさを知ってほしい。きっと、何気なく見ていたCMが、いつもと違って見えるようになる。

文=中川凌

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