殺人を犯した同級生が「告白本」を出版…その衝撃の内容とは――

文芸・カルチャー

公開日:2021/3/13

書店員と二つの罪
『書店員と二つの罪』(碧野圭/PHP研究所)

 書店を舞台に繰り広げられる人間ドラマを軽妙なタッチで描いた「書店ガール」シリーズ(PHP研究所)は本好き、書店好きを虜にしたお仕事エンターテインメント小説。元AKB48の渡辺麻友と稲森いずみのW主演でテレビドラマ化もされ、大きな話題になった。

 そんなベストセラーを生み出した碧野圭氏が、この度世にはなった最新作は書店員×ミステリーという斬新な切り口の長編小説『書店員と二つの罪』(PHP研究所)。スリルと狂気が詰め込まれた本作には「書店ガール」シリーズとはまた違った魅力があり、読者に良心の重みを問う作品となっている。

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殺人事件を起こした幼なじみが「告白本」を出版

 書店員の椎野正和が、ある日書店に届いた積荷を開けていると、真っ黒な表紙に真っ赤なタイトル文字が記された異様な本を発見。著者名を見て、頭がフリーズした。

 その書籍は女子中学生を惨殺し、校庭に遺棄した少年犯罪者による告白本。「死我羅鬼」と名乗っていた犯人が同じ中学に通う未成年であったことや、とある漫画のワンシーンが犯行で再現されていたことなどが大きな話題となり、事件は人々の脳裏に強く焼き付けられることとなった。

 凶悪事件の犯人が手掛けたこの書籍をどう扱うべきか…。書店業界は、そんな難しい問いを突き付けられることになる。

 しかし、正和が困惑したのには別の理由が。実はこの事件を起こしたのは、正和の隣に住む幼なじみ。事件後、正和は共犯者と疑われ、誹謗中傷を受けたことがあったため、心がざわついた。

 なぜ今更、こんな本を出したのか…。そう思い、告白本を遠ざけていたが、当時、自分を追いかけまわしていた雑誌記者の青木毅から告白本に違和感を覚えると聞き、手に取ってみることに。

 そこには懐かしい平和な日常と共に、あの頃気づけなかった幼なじみの狂気が記されていた。衝撃を受けつつページをめくっていくと、なぜか事実とは違う描写が。違和感を覚えた正和はひょんなことから書籍に隠された「嘘」と「秘密」を知ることになるのだが、それは悲しいことに自身や周囲の人が抱えてきた「罪」を暴くことに繋がっていく――。

 1冊の告白本が発刊されたことにより掘り起こされる、衝撃の真実。それらを知ると読者は、「本当の正義とは何か」と自分に問いたくなるはず。それぞれの登場人物が口にする罪の告白は、あなたの胸にどう響くだろうか。

 なお、本作はミステリーでありながら書店業界の裏事情や書店員の本への想いや葛藤などもうかがえ、「書店ガール」同様、知らない世界に触れられるお仕事本でもある。特に、背に腹はかえられないと話題性のある告白本を売り出す出版関係者と、売れる悪書より売りたい良書を…と願う書店員の対立は必見。本との向き合い方はもちろん、文の世界に携わるいちライターとして、文字の紡ぎ方も考えさせられた。

 斬新な視点を盛り込んだ作品で出版業界を盛り上げていく、碧野氏。今後も、どんなドキドキや教訓を私たちに与えてくれるのか、楽しみだ。

文=古川諭香

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