2020年コロナ禍のイギリスで一番読まれた記録的ベストセラー! 絵で読む「人生寓話」が日本上陸

文芸・カルチャー

公開日:2021/3/19

ぼく モグラ キツネ 馬
『ぼく モグラ キツネ 馬』(飛鳥新社)

 社会全体が暗い雲で覆われている今、「前を向いて生きていけない」「こんな生き方しかできない自分が嫌い」という絶望を抱えている人はきっと多い。光の見えないトンネルの中で生きる意味さえ分からずに彷徨ってしまう日が、私たちにはあるように思う。

 そんな時、心に灯をともしてくれるのが、アート絵本『ぼく モグラ キツネ 馬』(飛鳥新社)。作者は、イギリスのイラストレーター、チャーリー・マッケジー氏。

 彼がペン1本で描いた圧巻のイラストや奥深い名言はコロナ禍のイギリスやアメリカでシェアされ、多くの人の心を救っている。

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 ニューヨークタイムズでベストセラー1位になったり、2020年イギリスで最も売れた本に認定されたりと異例の快挙を成し遂げた。そんな人々の心を癒しているミリオンセラーがこの度、日本に上陸。翻訳を手掛けたのは、『世界から猫が消えたなら』(小学館)など、数多くの人気作品を生み出している作家・川村元気氏。

 本書には、8歳の子どもから80歳の大人にまで響く「人生寓話」が綴られている。

子どもから大人まで! 100万人の心に染みた「人生寓話」

 本作は絵本として楽しむのはもちろん、どこから読んでも、部分的に読んでも楽しめる作風がユニーク。登場するのは男の子、モグラ、キツネ、馬だ。

 ひとりぼっちだった男の子はある日、1匹のモグラと出会う。ふたりはたくさんおしゃべりをし、いつしか森を見つめて過ごすようになった。ふたりが見つめる深い森は恐ろしいけれど、どこか美しい。まるで、人生のようだ。

 森の中を彷徨い始めたふたりは、罠にかかったキツネに出会う。キツネはつらいめに遭ってきたため、ほとんどしゃべらず、モグラに対しては攻撃的な態度を見せもする。そんなキツネに、モグラは優しくも力強い言葉を贈る。

“じぶんにやさしくすることが、いちばんのやさしさなんだ”モグラはいった。”

 やがて、彼らは大きな馬に出会うのだが、そこから先は涙でなかなかページがめくれなくなる。なぜなら、穏やかな馬が口にするひとつひとつの言葉が心に染みすぎるから。

“いままでにあなたがいったなかで、いちばんゆうかんなことばは?”ぼくがたずねると、
馬はこたえた。“たすけて”

“涙がでるのはきみが弱いからではない。強いからだ”

 これまで生きてきた中で刻まれた傷や許せない過去を温かく包み込んでくれるのだ。

 男の子、モグラ、キツネは馬と出会い、自分や他者の弱さを受け入れ、「私であること」や目の前に広がっている世界を楽しむことに対して前向きになっていく。そうした変化を見守った後、自分の内側に目を向けてみると、嫌いでたまらなかった自分の弱さが、とても大切なもののように思えてくるから不思議。

 常に強い人間でありたいとずっと思い続けていたけれど、もしかしたら人は各々が違った弱さを抱えているからこそ、大切な人の痛みに寄り添えたり、誰かの弱さを愛しく感じたりするのかもしれないと思えたのだ。

 彼らの抱える悲しみや孤独、不安などは自分の心の中にあるものとどこか重なる。まるで、胸に秘めている後悔を見透かしたようなイラストと名言。それに読者は泣き笑い、そして、気づく。私は知らないうちに自分を罰し、追い込んでいたのかもしれない……と。

 がむしゃらに生きる中で一体、自分は何を見失ってしまったのか。そう考えるきっかけを授けてくれる本作は、人生という名の深い森をじっくり見つめたくなった時におすすめしたい1冊。

 希望もなく、過去に負けそうになる憂鬱な日にそっと寄り添ってくれる仲間が、ここにはいる。

文=古川諭香