もっとも“伊坂幸太郎らしい”作品! 大切な人に別れを告げる「グッド・バイ」ストーリー『バイバイ、ブラックバード』新装版の美しい表紙に注目!

小説・エッセイ

更新日:2021/3/30

バイバイ、ブラックバード〈新装版〉
『バイバイ、ブラックバード〈新装版〉』(双葉文庫)

 「伊坂幸太郎さんの作品の中で、もっとも『伊坂幸太郎さんらしい』作品は?」と問われたら、『バイバイ、ブラックバード』を挙げたい。この作品は、5股をかけていたダメ男とその相棒の怪物女が、「さよなら行脚」をする連作短編集。太宰治の未完の絶筆『グッド・バイ』のオマージュ作品なのだが、その内容は、まさに、伊坂ワールド全開だ。「地上から数センチ浮いた日常」といえるような、現実にありえそうでありえない設定。奇妙な登場人物たちのおかしなやりとり。そして、張り巡らされた伏線の回収がとにかく気持ちいい作品なのだ。

 その作品が『バイバイ、ブラックバード〈新装版〉』(双葉文庫)として、装いも新たに発売された。新装版の書影は、デザイナーが提案した多くのイラストや写真の中から、伊坂さんが「コレ!」と即答して決定したものらしい。伊坂さんがビビビッときたのも納得。まさに、この物語の表紙にふさわしい美しいデザインだ。

 主人公の星野一彦は、怪しい組織から多額の借金を抱え、借金のかたとして、近いうちに、〈あのバス〉で連れされられることになってしまった。その見張り役として、彼のもとを訪れたのが、「身長190cm、体重200kg、金髪でハーフ」という“怪物女”繭美。星野は、「連れ去られる前にせめて5人の恋人たちに別れを告げたい」と繭美に懇願。なぜか、その要望は認められ、星野と繭美は、5人の女たちを訪ねては、「繭美と結婚することにした」と嘘をつき、別れを告げる「さよなら行脚」をすることになる。

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 伊坂さんの描くキャラクターは、どうしてこうも愛らしいのだろう。主人公・星野は、5股をかけていたダメ男のはずだが、実際は、とにかく素直で単純な男だ。快楽を求めていたとか、女たちを騙そうとしていたとかそういうわけではない。すべての行動に計算はなく、「どの人と一緒にいるのも楽しかった」という呆れた理由で5人の女性と付き合っていただけ。別れを告げる時だって、その人の良さがついつい滲み出てしまう。

 そして、その相方となる怪物女も、とにかく強烈なのに、どうにも嫌いになれない。「身長190cm、体重200kg、金髪でハーフ」という見た目もおそろしいが、言動も粗野。乱暴。下品で、無礼。まわりの人間を不愉快にさせることを楽しむ悪趣味をもつ無神経のかたまりなのだ。「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」など、自分に必要のない単語を黒く塗りつぶした“マイ辞書”を常に持ち歩き、常軌を逸した行動をとっては、星野の恋人たちを苦しめていく。だが、最初は、彼女が悪の権化のように見えていたはずなのに、星野との日々を追ううちに、次第にその印象が変わっていってしまうから不思議だ。

 あらすじだけをみると、この作品は、恋愛もののように思われるかもしれないが、アクションあり、ミステリーあり、はたまた心温まるヒューマンドラマあり、と、各話それぞれに多彩な味わいがある。余韻のあるクライマックスもまた素晴らしい。読み終えた後に、ふと表紙を眺めると、5股をかけられていた女たちのことを、そして、あの“怪物女”のことをついつい考えてしまうのはきっと私だけではないだろう。一冊で何度でも楽しめるこの作品で、あなたも伊坂ワールドを堪能してみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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