自分の中の『よつばと!』に気づく3つのキーワード③よつばと見る風景――雑誌『ダ・ヴィンチ』2008年3月号の「よつばと!特集」を特別公開

マンガ

更新日:2021/6/30

『ダ・ヴィンチ』2008年3月号P22~23より

 約3年ぶり、『よつばと!』最新15巻発売を記念して、雑誌『ダ・ヴィンチ』2008年3月号に掲載した「あなたのこころの“よつば”は元気ですか? 大人になった今だから、『よつばと!』」特集を大公開!

 ページをめくると、そこに広がっているのは、ちょっとだけ懐かしい感じのする風景。抜けるような青空や木漏れ日があふれる公園、あるいはすぐそばにありそうな住宅街……。そんな風景を細やかなペンタッチで拾い上げているのも『よつばと!』の魅力のひとつだ。

よつばと!
1巻 第5話「よつばとかいもの」

ノスタルジーだけには終わらないささやかな風景

 『よつばと!』第3巻の帯には、こんなコピーが踊っている。「どこかで見た、どこにもない場所へ」。ずいぶん昔に行ったことがあるような気がするのだけれど、でも、よく考えてみれば初めて見る風景。そんな不思議な“懐かしい感じ”もまた、『よつばと!』の外せないポイントだろう。

 よつばが駆け抜ける住宅街の路地や近所の公園。スーパーマーケットやコンビニ、近くの土手、海、動物園……。ごくありきたりな日常の風景を切り出してみせる、あずまきよひこの手つきは、しかしあくまでも繊細だ。

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 実景写真をベースにしたと思しき、くっきりとした構図。細かなペン先できっちりと描き込まれながらも、クリアな感触を失わないコントラスト。その透明な視点は、読んでいるわたしたちのノスタルジーを刺激してやまない。

 もうひとつ、『よつばと!』における風景の描かれ方について注意を促しておくなら、それらが、よつばの目を通した風景であること、が挙がられる。例えば、ジャンボたちと渓流釣りに出かける第23話「よつばと釣り」。釣り場に向かう途中、よつばたちを乗せた車は、大きな橋を通る。そのとき、よつばはこう叫ぶ。「あ! はしだ!!」。思わず読み流してしまいそうなひとコマだが、つまり、世界はよつばによって、“発見”され、“声”をかけられることで、再び輝き始める。

 ささやかな現実を、ささやかなまま肯定するということ。ありのままの風景を、丸ごと承認するということ。『よつばと!』の風景がこれほど胸に迫ってくる秘密は、たぶんこここにある。

突然の夕立に……

1巻 第7話「よつばとおおあめ」

 緑色の雲がもくもくと湧き出してきたと思ったら、次の瞬間、バケツをひっくり返したような大雨。でも、長靴をはいたよつばは、そんなのお構いなしに外に飛び出していく。そのとき、どしゃぶりの雨はまるで天然のシャワーのようで、身体中をズブ濡れにしながら、当のよつばは大はしゃぎ。大人なら躊躇してしまうようなことでも、彼女はすぐに“楽しい”に変えてしまう。そんな、よつばマジックを感じさせる、印象的なワンシーン。

浴衣とお祭りと屋台と花火 思わず胸躍る夏の光景

3巻 第21話「よつばと花火大会!」

 心優しい(?)お兄さん、ジャンボに引率されて、チビっ子組は花火大会へ。よつばも今日は浴衣に着替えて、どこか浮き足立った様子。会場にずらりと並んだ屋台を見るやいなや、とーちゃんが注意していたにもかかわらず、飛び出していってしまう……。『よつばと!』では珍しく、カラー印刷が効果的に使われた「花火大会」のエピソード。賑やかな会場の様子に、昔、家族や友人、恋人とでかけたお祭りの空気を思い出す人も、きっと多いハズ。

つくつくぼうしの正体を探して

4巻 第27話「よつばとつくつくぼうし」

 時間が止まったような、じりじりとした夏の太陽。地面からゆらゆらと立ち昇るかげろう。ふと鼻をつく、草いきれの匂い……。誰でも一度は体験したことのある、夏の風景が描かれた「つくづくぼうし」のエピソード。ひまわりを探しに近くの土手まで出かけたあさぎとよつばは、そこで本物の「つくつくぼうし」に出会う。セリフをすべて排して、最後の「セミ」を見つけたカットまで持っていく。流れるようなコマ遊びも見事。

夜の郊外でちょっとキャンプ気分?


5巻 第31話「よつばとほし」

 いつも見慣れているはずの風景でも、夜になればちょっぴり様子が変わる。夏休みの宿題に出された「星の観察」のために、町外れの公園まで出かけた、よつばたち一行。街の中心部から少し離れるだけでも、ずいぶんとキレイな夜空が広がっているのです。ランタンの火に照らされて、カップラーメンを食べるよつばたち、ご飯そっちのけで、双眼鏡で夜空を眺めている恵那など、キャラクターごとの行動の違いも、見逃せないところ。

自転車に乗ってちょっと遠くまで出かけてみよう

6巻 第40話「よつばとはいたつ」

 9月になった記念に(?)、とーちゃんに自転車を買ってもらったよつば。とびきりおいしいスペシャルな牛乳を、風香に飲ませてあげるために、ひとりで街中に飛び出してしまいます。後ろからやってくる車にビビったり、大きな橋をひいひいいいながら登ったり、はたまた下り坂で盛大に転んだり……。大人にとってはごくごく当たり前の風景も、子供にとっては大冒険の舞台。でもそうやって、よつばの世界は少しずつ広がっていく。

緑のまきばを静かな風が吹き抜けていく


7巻 第48話「よつばとぼくじょう」

 まだ本物の牛を見たことのない(?)よつばのために、とーちゃんの発案で牧場見学に行くことに、ちょっと郊外まで車を走らせて、たどり着いたところは、壮大な大平原! 目の前いっぱいに広がる緑の草原に、のんびりと羊たちが草を食んでいる。そこで、思わずテンションの上がってしまったよつばは、一目散に駆け出すのだが……。すっきりとした構図に収められた牧場ののどかな風景は、ホリデー気分を反映しているようで、思わずにんまり。

8月30日、今年最初で最後の海水浴

5巻 第33話「よつばとはれ」

 夏はなぜか、人をノスタルジックな気分にさせる。それが8月の終わりとなれば、なおさらのこと。……というわけで(!?)、とーちゃんに連れられたよつばたちは、電車に乗って一路、海水浴場へ。電車を降りてゆるやかな坂を下ると、そこから見える青い海と青い空。一斉に駆け出したくなる気持ちも。なんだかすごく、よくわかる。それにしても、電車の窓から見える海って、どうしてこんなにドキドキするんでしょうね??

構成協力・文=宮 昌太朗

(『ダ・ヴィンチ』2008年3月号より転載)

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