『愛の不時着』ヒョンビン主演! 斬新な設定と緻密なストーリーで魅了する韓国ドラマ『アルハンブラ宮殿の思い出』

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公開日:2021/3/20

アルハンブラ宮殿の思い出
Netflixオリジナルシリーズ『アルハンブラ宮殿の思い出』独占配信中

(※本記事には一部ネタバレがあります)

『アルハンブラ宮殿の思い出』は、筆者の個人的なことをいえば、じつは食わず嫌いをしていたドラマのひとつである。まずタイトルからなんとなくファンタジックなラブストーリーなのかなと思っていたし、AR(拡張現実)をモチーフにしているらしいけど、それもちょっと流行りに乗りすぎてるんじゃね? と懐疑的に受け取っていたからだ。

 なので2018年に配信開始された時は見向きもせず、結局この作品に触れたのは『愛の不時着』を観たのがきっかけで、ヒョンビンの作品を他にも観てみようと思ってから、つまり去年のことだった。今となってはなぜリアルタイムで観なかったのかとちょっと後悔している。それぐらい面白い作品だったからだ。ヒョンビンはこの作品を作るために3年ぶりにドラマ復帰したのだが、それぐらい入れ込んでも確かにおかしくはない、斬新で強烈な作品だった。

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アルハンブラ宮殿の思い出
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 ヒョンビンが演じるユ・ジヌはIT投資会社の代表で、行方を絶ったARゲームのプログラマーを探してスペイン・グラナダにやってくるところから物語は始まる。彼との待ち合わせ場所だった古いホステルにたどり着くと、そこには女性の主人チョン・ヒジュ(パク・シネ)がいた。そこまではわりとよくある展開だが、このドラマがすごいのはそこからだ。スペインの街中で、いきなり剣や銃を使った戦闘が始まり、それが延々と続き、視聴者は「えっ、なにこれ」と驚きながら画面を見つめることになる。ネタバレになるが種明かしをしてしまうと(じゃないとこのドラマのことをこれ以上書けない)、それらは全てARゲームの世界での出来事なのだ。コンタクトレンズと小さなイヤホンを使って、ジヌはバーチャル空間に入り込んでいく。実際の風景と重なって描き出されるゲームの世界の中でドラマは展開していくのである。物語はどんどん壮大に広がり、思いも寄らない結末へと突き進んでいく。

アルハンブラ宮殿の思い出
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 とにかくハイクオリティなVFXと、絶対これ書いた人ゲーム好きだろと思わせる濃密な脚本、そしてスリリングな展開の中で浮かび上がる人間の深い業と愛……。もちろんジヌとヒジュのロマンスも重要な要素なのだが、このドラマにおいてそれはサブストーリーのひとつに過ぎない。おそらく予算も時間も思いっきり費やして作られたのであろう作品世界と、その中で運命に翻弄されていくジヌの姿こそが『アルハンブラ宮殿の思い出』の本筋であり、この作品の最大の魅力なのだ。

 その魅力の根幹を握っているのが、ヒョンビン演じるジヌのキャラクターである。『愛の不時着』のジョンヒョクはじめ、どちらかといえば育ちも才能もピカイチのエリートという役柄が多い印象のある彼だが、この作品で演じたジヌはそれとは少し違っている。優秀は優秀なのだが、決してはじめから恵まれていたわけではなく、必死に努力して成り上がった苦労人なのだ。そうした背景もあって物語の序盤ではちょっと性格がひねくれているところがクローズアップされていたりもするのだが、ドラマが展開するにつれて、その性格も変わっていく。最終2話の彼に襲いかかる出来事は涙なしでは見られないのだが、過酷な運命を受け入れて進んでいく姿には胸が熱くなること請け合いである。

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 その相手役を演じたパク・シネもすばらしい。彼女は現実世界においてもゲーム内の世界においても、ストーリーの鍵を握る極めて重要な役割を演じることになるのだが、どちらかといえば男の登場人物が多いやや暑苦しい画面の中で、彼女が登場するとガラッとムードが変わる。話題作に次々と出演している実力派女優だが、今作で演じるヒジュは、彼女がこれまで演じてきたどの役とも違う。話の展開によってコメディリリーフ的な役割からシリアスな悲劇のヒロインまでを表現する彼女の演技力がこの新鮮で大胆なドラマを支えていることは間違いない。

文=小川智宏

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