AIと画家の絵が同じ値段でも買う? アナタの脳の強みと弱みを知るテスト

文芸・カルチャー

公開日:2021/3/20

『思考実験が教えるあなたの脳の鍛え方 「強み」と「弱み」を知ると思考の幅は広がる』
『思考実験が教えるあなたの脳の鍛え方 「強み」と「弱み」を知ると思考の幅は広がる』(北村良子/青春出版社)

 年齢や安静の程度にもよるが、人間は1週間ほど体を動かさないでいると筋力が10~15%ほど低下し、さらに長い期間を運動せずに過ごしていると実際に筋肉が減少するうえ、骨からはカルシウムが血液中に溶け出し、関節も滑らかに動かすことができなくなっていくという。だから最近では、病院に入院し手術などの治療をした場合にも、早めにリハビリを始めるそうだ。『思考実験が教えるあなたの脳の鍛え方 「強み」と「弱み」を知ると思考の幅は広がる』(北村良子/青春出版社)では、思考力についても「使い慣れた脳回路=使い慣れた力」を使うことが多く、年齢を経るごとに「あまり使わない回路はより細くなり、ついには使えなくなります」と指摘している。

 年を取れば取るほど考え方が偏っていき、老害などと人から云われるようになるのは避けたいところ。本書は仮定の設問を通して、自分では気づかない「思考のクセ」を教えてくれるとともに、パズル作家でもある著者が考えた「鍛えたい力を強化するパズル」を提供してくれる。

 思考実験というと、とある状況で多くの人と一人の命ならどちらを犠牲にするのかを問う「トロッコ問題」が有名だ。この問題では自身の倫理観も問われ、本書にも似たような設問がある。しかし人の命が前提となると、考えるのも嫌だと感じる人がいるだろう。著者は本書を冒頭から順番にではなく、自分が興味を惹かれる問題をチョイスすれば良いと勧めており、また各設問では著者が独自に集計したアンケート結果が載っていて、自分が多数派なのか少数派なのかを参考とすることもできる。なお、本稿での設問は文字数の関係で、本書からの抜粋であることをお断りしておく。

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思考実験『王族への暴言』

問:公の場での王族への暴言が罪となる国において、「女王は愚かだ」と大声で言い立てる男がいたとして、自分が警察官の一人だったら、この男を捕らえるか。ただし、現在この国に「女王」はいない。

 本書での答えは三択で、「A.捕らえるべきだと思う」「B.女王は存在しないので捕らえなくていいと思う」「C.架空の人物や他国の女王かもしれないので捕らえなくてもいいと思う」から、アンケートではBとCが合わせて68%になった。それぞれの回答を考察すると、Aは推理力を働かせて判断したと考えられる一方、安易に決めつけた可能性も残り、より深く考える「熟考力」が弱点。Bは今ある確実な情報をもとに分析力を生かしているものの、発言している男が性別を言い換えている可能性への「推理力」が足りない。Cは検証不可能な予想を立てており、思考を深掘りする「論理力」に欠けている反面、想像力や発想力が優れているとも云えるという。

思考実験『読めない文章』

問:人類が絶滅してから2万年が過ぎた地球に知的生命体たちがやってきて、A4の紙5枚に残されたメモ書きを発見したが解読できない。自分が知的生命体の一員であると考えた場合、読めない文章は彼らにとって「言語」と云えるだろうか。

 二択の「A.全く読めなくても、彼らにとって言語といえると思う」「B.誰にも読めないなら、彼らにとって、その時点では言語とはいえないと思う」のうち、アンケートでは83%がAと回答したそうだ。主語や語尾など繰り返し出てくるワードを頼りに読み解いていくという手法があり、本書では自転車は壊れても「壊れた自転車である」と認識できるように「論理力」を発揮したと、Aについて解説している。「いたずらで実際に意味をなさない」文字ですらない可能性があるという、但し書き付きでだが。一方、言語のルールは時代によっても変化するものだから、解読できたとしても文章の意味までは伝わらないかもしれず、Bは高い分析力があるとも考えられるという。

思考実験『AI画伯』

問:AIの描いた絵が増え始めた頃に絵画の販売会が開催され、作品は絵画界の巨匠たちが出来栄えのみを評価して売り値を決め、販売会の開始時に作者の情報が公開される。人の絵とAIの絵が同じく5000万円だったら、あなたはAIの絵を購入する?

 この設問は、何に価値を見出すかということでもあるだろう。「A.AIでも人でも同じ価格で購入する」「B.同じ価格では買わない」の二択では、ややBが多い56%だった。Bは「ピカソの落書き」に価値がつくように、作者の背景を含めて評価しているとともに、「世間からの評価」も重視していると考えられる。Aの方は、すでにAIの絵が普及しているという設定ゆえにその価値は考慮せず、自分自身を基準としている。興味深いのは著者による両者の評価で、Bの方が「感情的に考える」傾向としている点だ。

 なるほど、回答をどう評価するかは非常に難しいところだ。一番の頭の体操は、著者のように問題やパズルを考えてみることなのかもしれない。

文=清水銀嶺