教科書にも掲載されているジョブズの死生観とは? 池上彰と「死」について考える

社会

公開日:2021/3/25

池上彰と考える 「死」とは何だろう
池上彰と考える 「死」とは何だろう』(池上彰/KADOKAWA)

 家から出ない日が続くと、つい考え事が増えてしまう。これからの仕事のことや、家族のこと、そして自分の「死」について…。いつ死ぬかわからないのに、今のだらだらとした生活で本当にいいのか。自分が死んだあとに、世に残るような仕事ができるのだろうか。そんなことを考え出すと、なかなか眠りにつけなくなる。

「死」についてモヤモヤしているときは、一度本を読んで思考を整理してみるといい。本書『池上彰と考える 「死」とは何だろう』(池上彰/KADOKAWA)では、ジャーナリスト・池上彰さんが、科学、宗教、コロナ…さまざまな面から「死」について考える。「死」については、古今東西あらゆる人たちが恐れ、悩んできた。その知識や考え方を知れば、あなたの「死」へのスタンスも見えてくるかもしれない。

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コロナ禍で増えた「あいまいな喪失」

 まずは、コロナが「死」に与える影響を見てみよう。コロナ禍で心配されているのが「あいまいな喪失」の増加だ。大切な人がコロナに感染して亡くなった場合、感染予防のために最期を看取ることができず、「死」を実感できないことが多い。しかも、死後すぐに火葬場へ直行するから、遺族がいきなり遺骨と対面することになる。

 私たちは、この「あいまいな喪失」とどう向き合えばいいのか。池上さんは、コロナで夫を失った女性の手記や、10年前の「東日本大震災」の遺族の様子など、喪失を受け入れようとしてきた人々の姿を教えてくれる。当事者の文章やインタビューで彼らの感情を追体験すると、ただの情報ではわからなかったことが見えてくる。

教科書にも載るスティーブ・ジョブズの死生観

 本書は、さまざまな宗教や、著名人の言葉からも、「死」に迫っていく。なかでも、iPhoneの生みの親であるスティーブ・ジョブズの言葉は、私たちの生活に馴染みやすい。本書では、なんと、日本で高校の英語の教科書にも採用されているという彼の言葉を紹介している。

 ジョブズは17歳のとき、「毎日をそれが人生最後の一日だと思って生きれば、その通りになる」という言葉にであった。それから、「もし今日が最後の日だとしても、今からやろうとしていたことをするだろうか?」と問い続けたという。ジョブズは毎日「死」を意識することで、その日の「生」を考えていたのだ。その結果は、すでに私たちがよく知るところである。

「死」について考えていけば、おのずと自分の生き方が見えてくる。本書では他にも、「どんな状態が死なのか?」「なぜ死は必要なのか?」と科学的な目線から考えたり、宗教学者の釈徹宗さんとの対談で「死」にまつわる悩みに答えている。「嘘をついて恋人を奪った友人を殺したくなる」など、なかなか答えにくい質問にも誠実に回答している。さまざまな切り口で「死」に迫っていくが、さすがは池上さん、どの分野でもわかりやすかった。ゆっくり時間があるうちに、一度立ち止まって「死」と向き合ってみては。

文=中川凌(@ryo_nakagawa_7

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