糖質、飲酒、オンラインゲーム…依存物質天国の日本で、私たちの身近に潜む「依存症」の落とし穴

社会

公開日:2021/3/26

あなたもきっと依存症 「快と不安」の病
『あなたもきっと依存症 「快と不安」の病』(原田隆之/文藝春秋)

 芸能人が薬物で逮捕されたりすると突然クローズアップされる「依存症」という病の恐ろしさ。とはいえあくまでニュースの中の話であり、多くの人は自分には関係ないと思っているかもしれない。だが実は「日本で最も多い病気のひとつが依存症」だと知っていただろうか。しかも依存症に関する最新の知見を集めた『あなたもきっと依存症 「快と不安」の病』(原田隆之/文藝春秋)によれば、実は私たちの身の回りには依存症の落とし穴がたくさん開いているというのだ。

 依存症とは簡単にいうと「ある種の物質の摂取や行動の反復によって、脳の機能が変化してしまい、コントロールが利かなくなった状態」のこと。たとえば「薬物依存症」なら麻薬などの薬物を繰り返し摂取することで脳の機能不全が起こり、もはや本人の意志の力ではどうにもならなくなってしまうのだ。

 薬物の存在はちょっと遠く感じるかもしれないが、「アルコール」ならもう少し身近かもしれない。「アルコール依存症」も代表的な依存症のひとつだが、なんと日本の成人の4人に1人は依存症に陥りかねない問題飲酒をしているという。たびたび記憶をなくすといった状況がある人は要注意だが、「ついつい飲みすぎる」とか「休肝日が作れない」というのも「飲酒のコントロールを欠いている状態」であり「依存症=コントロール障害」と考えればイエローカード。コロナでリーズナブルな宅飲みが増えがちな今、思い当たる人は上手な付き合い方を考えたほうがよさそうだ。

advertisement

 さらに本書が紹介する依存症の中には現代特有のものもあって興味深い。たとえばそのひとつが、「糖」が原因物質となる「糖質依存症」。「甘いもので癒される~」と思うのは、アルコールや薬物と同じように摂取することで快感物質が分泌されるためであり、それだけ依存性も高いのだ。ある研究者は「糖は安くてうまい毒」とも言っているそうで、意識しておいたほうがいい物質であるのは間違いないだろう。このほか「オンラインゲーム依存症」なども若年層に広がっているといい、実は我々の暮らしが生み出すさまざまな「快」はそのまま依存症の入り口になりかねない。さらにタバコもお酒もスイーツもコンビニで24時間手に入り、街にはパチンコ屋…といった日本の環境は依存物質天国状態であり、気をつけないと依存症の「落とし穴だらけ」といえるのだ。

 なお依存症に陥ってしまうと自分の意志の力で回復するのは極めて難しい。本書では治療の最前線もさまざまに紹介するが、「依存症に特効薬はなく、多種多様な方法を組み合わせて対処するのが現時点で一番有効な方法」であり、回復の兆しが見え始めるまでに「最低2年はかかる」と著者。そうした長期戦を耐えるためには、支えてくれる周囲の理解が不可欠であるのはいうまでもなく、本書で依存症の現実を知ることは、誤解や偏見を防ぎ彼らの苦しみを理解する上で大きなサポートになるだろう。とにかく日本が依存症大国である以上、自ら「落とし穴」に落ちないためにも、隣人が穴に落ちてしまったときのためにも、用心のために本書を読んでおくのは悪くないはずだ。

文=荒井理恵

あわせて読みたい