子供と共にドラえもんのマンガを読みながら、乗物の歴史と基礎知識が学べる一冊!

出産・子育て

公開日:2021/3/31

ドラえもん科学ワールド 乗物と交通
『ドラえもん科学ワールド 乗り物と交通』(藤子・F・不二雄/小学館)

 読者の皆さんは「スペースX」をご存じだろうか。米国で2002年に設立された航空宇宙メーカーだが、そこで製作されたロケットが垂直着陸する映像に驚いた人も少なくないはず。銀色のツルツルボディと、火を噴きながら降りてくる姿に特撮ファンの間では「昔の特撮ロケットのようだ」との感想も。そういえば古い『ドラえもん』でもこんなデザインのメカが出てきたなと思っていたら、そのドラえもんと共に乗り物と交通の歴史と仕組み、そして未来を学べる一冊が登場した。

『ドラえもん科学ワールド 乗り物と交通』(藤子・F・不二雄/小学館)は、乗り物の発明と歴史、最新技術を学ぶのに最適な入門書だ。21世紀も既に20年を超える現在、科学技術の利便性が身近すぎるせいなのか、その仕組みを意識しないでも利用できるが、果たして我々大人がそれでよいのか。本書には、好奇心旺盛な子供たちに質問されたときに困らないくらいの基礎知識が詰まっている。また各章のテーマに沿った『ドラえもん』のマンガが掲載されているのも見どころだ。

 まずは身近な乗り物である自動車の紹介から。車輪の発明に始まり自動車の進化と最新技術、また未来の自動車像として「無人で働く自動車」や「空飛ぶ自動車」も紹介。ファンなら「無人で働く自動車」と聞いて映画『のび太の海底鬼岩城』で活躍した、人工知能を持つ「水中バギー」を思い出すかも。「空飛ぶ自動車」ならかつては「未来世界」を描く象徴だった。もっとも、現実の「空飛ぶ自動車」は、市販のドローンを大きくしたようなデザインで、昭和に描かれたそれとは、かなり印象が違う。

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 ここで一緒に掲載されている『ドラえもん』のマンガにも注目。冒頭は「ミニカー教習所」で、運転免許試験に落ち続けているパパのために、自宅で練習できるよう運転できるミニカーに乗り込む話だ。最初はのび太自身がテストと称し自ら乗車。運転席はマニュアルミッションで、クラッチを踏みギアを1速に入れて……という操作をドラえもんが指南している。小生はオートマチック限定免許だけに、勿論時代の流れもあるだろうが、のび太がそんな複雑な操作をこなしていることに驚いてしまった。

 次に注目したいのは、鉄道だ。ここでは蒸気機関車の基礎的な仕組みから電車との違い、今後の展望などが紹介される。中でもリニアモーターカーの紹介には「未来」を感じさせる。昭和の頃より繰り返し実験が行われていたが、近年ようやく営業路線の工事が始まったのは、記憶に新しいだろう。勿論、磁石の反発と引き寄せを繰り返し進行する基本的な走行の仕組みも紹介されている。モーターの回転を直線状に応用するなど、言葉ではイメージしづらいが、本書で図を見ると一目瞭然だ。

 ここで掲載されたマンガ『天の川鉄道の夜』も印象深い。ドラえもんが落とした「天の川鉄道乗車券」をのび太が勝手に使い、宇宙を走るSL型宇宙船「天の川鉄道」に乗り込むが……といった『銀河鉄道の夜』を思い浮かべる物語で、アニメ化もされて見覚えのある人もいるはず。藤子・F・不二雄氏は自身のSF作品を「Sukoshi Fushigな物語」と称しているが、本作もそれを象徴する一編だ。

 本書は他にも飛行機や船、ロケットなども紹介。これらの仕組みは、興味がないと考えることすらしない人もいる。以前、鉄道趣味を持たない友人と電車について話していたが、モーターで車輪を回すことに気づいていなかったのだ。確かに、仕組みを意識しないで利用できるのは、それだけ日常的で身近なものである証拠なのか。なれど、好奇心は忘れたくないもの。実際の科学技術が徐々に『ドラえもん』の世界に近づいているのは、藤子・F・不二雄氏の好奇心と想像力が人々の願望を反映していたからだと思えるのだ。

文=犬山しんのすけ

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