アジアの人びとはなぜベビーフェイス? 進化をたどるとみえてくる“顔”のロマン

スポーツ・科学

公開日:2021/3/31

私の顔はどうしてこうなのか 骨から読み解く日本人のルーツ
『私の顔はどうしてこうなのか 骨から読み解く日本人のルーツ』(溝口優司/山と渓谷社)

 世界にはさまざまな人種や民族がいて、それぞれ言語や生活習慣などが異なる。そして、人の“顔”もそれぞれの地域に住む人たちの特徴を映し出すものだ。

 書籍『私の顔はどうしてこうなのか 骨から読み解く日本人のルーツ』(溝口優司/山と渓谷社)は、タイトルのとおりヒトの“顔”にまつわるさまざまな疑問を明らかにする1冊。進化の成り立ちから解説した内容は、どれも興味深いものばかりだ。

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顔は左右対称なのに内臓は非対称なのはなぜ?

 微妙な差異はありながら、ヒトの顔は基本的に左右対称だ。一方、体の中にある内臓はなぜ「非対称なのか」を本書は考察している。

 そもそもヒトを含む脊椎動物は、外見だけではなく内臓も単純に左右対称だったという仮説もある。ただ、だんだんと「内臓の形や大きさ、働きが複雑に変化し、限られた体の中の空間を有効に使わざるを得なくなった」ことで、進化の過程で今のような配置になっていったという。

 生物の進化は、それぞれが住む環境による。何らかの理由で内臓が左右対称の動物が生まれたとしても、いずれ「不利な環境が続けば、もとに戻ったり、非対称になったりすることは、生物の進化の歴史を見れば、十分にあり得る」と著者は述べている。

アジアの人びとが“ベビーフェイス”である理由

 世界的にみると、アジアに住む人びとは「ベビーフェイス」だと言われている。人類の進化にふれる著者は、胎児化もしくは発育停滞を伴うまま大人になる「幼形成熟(ネオテニー)」が背景にあるのではないかと述べる。

 幼形成熟とは、幼児の姿かたちの特徴を保ったまま進化する現象だ。動物でいえば、愛らしい顔が人気のウーパールーパーなども、この過程をたどったとされている。そして、アジアの人びとが幼形成熟をしたのは「寒冷地に適応した結果かもしれない」と、本書では解説している。

 例えば、アジアの人びとは他の地域と比べて「ヒゲや体毛が薄い」と言われる。これもじつは理由があり、ロシア・シベリアのような北アジアの極寒の環境で吐いた息がヒゲに付いてしまうと、やがては凍傷になりかねない。そのため、寒さを防ぐために「成長を遅らせる遺伝子」が発達した可能性もあるという。

沖縄県で発見された2万年以上も前の日本人の痕跡

 この国に住む日本人のルーツについては、すべて解明されているわけではない。本書によると、現時点でも「過去180年間」も研究され続けているという。

 そして、近年もさまざまな研究過程が報告されている。例えば、2008年には沖縄県石垣島の白保竿根田原洞穴遺跡から「約2万8000〜2万7000年前」の人骨が発見された。

 その後、2018年には研究チームが「白保4号」と名付けて頭蓋骨をデジタル技術により復元。本書によると「日本列島の旧石器時代人や縄文時代人、中国南部やベトナムなどの先史時代人(日本においては旧石器時代人から弥生時代人)に近い」とされ、私たちの祖先であるとみられている。

 生物にとっての“顔”は「情報発信の基地」だと、著者は述べる。時代や地域により変化してきたことには、壮大なロマンも感じられる。本書を読むと、鏡越しに見える自分自身の“顔”もちがった角度から見えてくるかもしれない。

文=カネコシュウヘイ

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