【コラム】問題作『OBSOLETE』が描く、「本当の時代遅れ」は誰か。

アニメ

公開日:2021/4/3

「時代遅れ」と呼ばれた犬たちの遠吠えが聴こえてくる。

『OBSOLETE』とは「すたれた、もはや用いられない、時代遅れの、旧式の」という意味。どこかシニカルで、どこか自虐的にも聞こえるタイトルが付いているアニメ――それが本作だ。

 本作が面白いのは、まずその世界観である。

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 2014年、突如、異星人が地球人に通商を呼びかけてきた。彼らは1000キログラムの石灰岩と引き換えに、意識制御型の作業機械(エグゾフレーム)を提供するという。地球上の各地の人々は、異星人と取引を行い、瞬く間にエグゾフレームは普及してしまう。しかも、そのエグゾフレームは汎用性が高かったため、一部の国家では兵器に転用する者が現れた。やがて、その「安価で高性能な兵器」は、世界中の軍事バランスをゆがめていく――。

 石灰岩1000キロの市場価格はおおよそ960円(2021年1月現在/値段は品質による)。まさにお子様の小遣いで、脳波コントロールできる二足歩行ロボットが買えるのであれば、それはとてつもなく良い買い物だ。たちまち市場を席巻し、犯罪行為や違法行為に使う人もすぐに出てくるだろう。劇中では、持たざる者たち――少年兵やゲリラ兵たちがエグゾフレームに武器を積み、高価な戦車を撃破するシーンが印象的に描かれた。小学生のお小遣いで買えるような武器が、数億円の戦車を撃破するなんて、痛快の極みそのものだろう。

 このエグゾフレームのモチーフは、世界各地で普及しているアサルトライフルAK-47、通称カラシニコフである。1949年にソビエト連邦(現・ロシア連邦)の銃器設計者ミハエル・カラシニコフが開発した、このアサルトライフルは安価で頑丈だったため、すぐに各地の戦場で普及した。一挺の値段はおおよそ数十万円。開発から半世紀たった現在でも、世界で2億挺ものAK-47が出回っていると言われており、世界各地の軍隊や武装勢力で最も信頼された武器となっているという。まさに戦争を変えてしまった銃なのだ。

 数は世界を変える。

 ファストファッションの登場が、世界のファッションを変えたように。コンビニエンスストアが、人々のライフスタイルを変えてしまったように。安価でコスパが良い量産品は、たちまち人々の生活と街の風景を変えてしまう。

 その「数の暴力」の前には、正義感も美意識も関係ない。コスパが良いものの前には、伝統も文化も力を持ちえない。安ければ良い。使いやすければ良い。便利だったらなお良いだろう。圧倒的な物量の前に、自分たちの価値観が転倒していく。

 数が文化を侵略していく姿を、『OBSOLETE』は描いているのである。

 この恐るべき作品を手掛けたクリエイターは、虚淵玄。『魔法少女まどか☆マギカ』を手掛け、仮面ライダー(『仮面ライダー鎧武/ガイム』)、ゴジラ(『GODZILLA』)、『Fate』シリーズ(『Fate/Zero』)を手掛けた、日本最強の物語請負人である。約15分のショートアニメとして制作し、YouTube Premiumで世界配信を行う試みも意欲的。YouTubeのコメント欄には世界各国からのコメントが並び、世界中の人々がこの作品に衝撃を受けている姿が見えてくる。全12話の全世界における総再生回数は、5000万回を突破。ある意味で、『OBSOLETE』も、「数が新しい価値観を屹立する瞬間」を見せつける作品だと言えるだろう。また、このたび、高いコストパフォーマンスと大ボリュームを誇るBlu-ray Discも、全2巻で発売された。Blu-ray Discの上巻には、『OBSOLETE』のオリジナル・サウンドトラックと、往年の名作『装甲騎兵ボトムズ』とコラボレーションした 「炎のさだめ」OBSOLETE Ver.という関連映像を収録。下巻にもSkrillexが参加したオープニングテーマ“obsolete”や劇中アニメの劇伴を収めたCDが同梱されており、映像以外の側面からも、『OBSOLETE』の革新性に触れることができる。

OBSOLETE

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 さて、問題は、何が「OBSOLETE(時代遅れ)」なのか、である。

 たとえば、ロボットアニメというジャンルは「OBSOLETE」と言ってもいいかもしれない。ロボットアニメは『機動戦士ガンダム』や『超時空要塞マクロス』といった作品を筆頭に、70年代から80年代を中心にいち時代を築いたジャンルだった。だが、昨今、ロボットアニメで大ヒットする新作はほとんどなく、現在『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』や『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のようなシリーズ続編的作品が話題になるくらいだ。

 あるいは、劇中にも出てくる従来の戦車や兵器群が「OBSOLETE」なのかもしれない。数年の開発期間と数億円の開発費をかけて一台(一機)を作る戦車や戦闘機は、明らかに高コストな代物であり、莫大な軍事費を持つ大国でなければ、所有する意味のない兵器と言えるかもしれない。

 はたまた、人類という存在こそが「OBSOLETE」なのかもしれない。人類は発展した生活と文明を求めるあまりに、さまざまなものを傷つけてきた。手に入れたものも少なくないが、失ったものも大きい。AK-47が弾丸をぶちまける戦場を横目に、ファストファッションで服を買い、コンビニエンスストアで食事を取り、伝統や文化を風化させていく。はたして我々はこのまま歩み続けていいものだろうか……。

『OBSOLETE』という作品は、たくさんの示唆に富んだ劇薬だ。YouTubeの配信に加えて、Blu-ray Discを通して作品を体感することで、そのインパクトをより深く味わえるのではないか。そして、この『OBSOLETE』という劇薬を飲み干すことで、現在の自分が暮らすこの世界を違った視点で眺めることができるようになるだろうし、過去と未来を違った価値観で測ることもできるようになるはずである。

「時代遅れ」と呼ばれた犬たちの遠吠えが聴こえてくる。その響き渡る声は、エンターテイメントの持ちうる可能性なのだ。

文=志田英邦

OBSOLETE

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『OBSOLETE』 YouTube Originalsとして、バンダイナムコアーツチャンネルでEP1~EP12まで無料配信中。
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