親子で知る“東日本大震災から10年後の物語”──「3.11」の記憶を風化させないために語り継ごう

出産・子育て

公開日:2021/4/7

きみは「3.11」をしっていますか? 東日本大震災から10年後の物語
『きみは「3.11」をしっていますか? 東日本大震災から10年後の物語』(細野不二彦:著、平塚真一郎:著、井出明:著、河北新報社:著/小学館)

 2021年3月11日で、あの2011年3月11日に発生した「東日本大震災」から10年となった。メディアでは連日、追悼番組や検証番組が放送されたが、1週間も過ぎればほとんど取り上げられなくなった。現在はコロナ禍でもあり、やむを得ないことなのかもしれないが、それでもやはり10年の経過による「記憶の風化」を感じてしまう。特にいわれているのが、震災を知らない世代にどう伝えていくのか、ということだ。『きみは「3.11」をしっていますか? 東日本大震災から10年後の物語』(細野不二彦:著、平塚真一郎:著、井出明:著、河北新報社:著/小学館)では、子供たちに震災のことを正しく知ってもらうため、漫画や新聞社のデータなどを使って分かりやすく「3.11」を伝えている。

 本書は基本的に、震災を知らない世代のために作られているので、まえがきなどのメッセージも子供向けに発信されている。本文の文字も大きめで、漢字にはすべてふりがなが振られているので、小学生でも無理なく読み進められる作りだ。その体裁のうえで、震災で何が起こり、人々がどう受け止めたのか、さまざまな話や意見を収録。ちなみに本書の編集者が宮城県出身であるため、やはり宮城県を中心とした構成となっている。

 まず子供たちに読みやすいよう、冒頭には震災を描いた漫画をオールカラーで掲載。漫画を担当するのは『さすがの猿飛』や『Gu-Guガンモ』などのヒット作を描いたレジェンド・細野不二彦氏である。そしてテーマは、大震災で被災した「石ノ森萬画館」の出来事を描いた「石ノ森萬画館の5日間」だ。『仮面ライダー』や『サイボーグ009』など、アニメ、特撮を問わず多くのヒーローを生み出してきた石ノ森章太郎氏。そんな氏の作品を収集、展示してあるのが石ノ森萬画館だ。「3.11」では当然、この建物も被災しているのだが、大きな被害は免れた。そこへ38人の被災者が身を寄せて救助を待つ状況が描かれている。そして萬画館の復興に関しては、被災当時の様子から復興までの歩みを写真で紹介。人の生きる強さをヒーローと重ねた熱いメッセージは、きっと子供たちの心にも届くだろう。

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 次に本書では、多くの人たちからの「声」を収録。震災で娘を失った先生の話や、宮城県のさまざまな場所で被災した人々の、偽らざる心境が綴られている。こういうコメントでは、有名人を起用して耳目を引くのがオーソドックスなのだが、本書は少し異なる。無論、プロ野球選手やサッカー選手などの著名人もいるが、登場する人のほとんどは漁師や会社員といった「市井の人々」なのである。逆にいえば、こういう一般の人々の「声」だからこそ、本当の意味での震災と復興が伝わるのではないか。子供たちの耳にも「身近なオジサン」の声のほうが、案外と届きやすいのかもしれない。

 防災の世界では「人は2度死ぬ」という言葉があるという。1度めは肉体の死、では2度めの死とは何か? それは死んだ人を覚えている人がいなくなるということだ。年月の経過により、記憶の風化が進んで震災を覚えている人は徐々に減っていく。記憶が失われれば、貴重な教訓も失われてしまうのだ。だからこそ、震災の記憶を受け継ぐことには意味がある。本書には震災のさまざまなデータも収録されているので、親子でいろいろなことを話し合いながら「3.11」の記憶を語り継いでいってもらいたい。

文=木谷誠

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