最強のギャップ萌え! 身分差の恋を描いた王宮ラブコメその後を描いた特別編が! 仲野えみこ作品の源泉に触れる短編集も同日発売

マンガ

公開日:2021/4/3

帝の至宝
『帝の至宝 特別編』(仲野えみこ/白泉社)

 瀕死の重傷を負った帝の窮地を救った平民の娘。あまりにビジュアルが幼いので、ここから恋物語を始めるのは『源氏物語』の時代ならいざ知らず、やや問題があるのでは……とハラハラしていたら「こう見えて18歳」という最強のギャップ萌えをそなえていた『帝の至宝』(仲野えみこ/白泉社)の香蘭。

 先入観というのはおそろしいもので、事実を知ったあとも帝の志季は、めちゃくちゃカジュアルに香蘭を抱っこするし甘い言葉も吐く。実は捨て子で、苦労をしょってるぶん誰よりも周囲のために尽くす香蘭のけなげさに少しずつ惹かれてはいくものの、それが友人としての愛情なのか庇護欲なのかわからないじれったさ。互いに恋心を自覚したあとには、立ちはだかる身分の壁のせいで、やはりなかなか成就しない2人の関係は、2014年に刊行された7巻で大団円を迎えた……のだが。昨年、その後の2人を描いた特別編の連載がスタート。なんの障害もなくなった2人のベタ甘模様を心置きなく楽しめる同作がついに『帝の至宝 特別編』(白泉社)として単行本化された。

 謙虚で働き者で、まっすぐに愛情を注いでくれる香蘭が、2年間の別離と苦労を経て大人の色香をそなえて帰ってきたとなれば、志季の溺愛ぶりがますます激しくなるのも必至。身分を隠して王宮で働く香蘭にヤキモチを焼く志季、そしてなかなか一線を越えられずに悶える夜を送る志季など、読みどころはたっぷりなのだが、個人的なおすすめはいつのまにか結婚していた夸白と叔豹のなれそめエピソード。「うちは仮面夫婦」と言ってはばからず、利害一致のみで結婚したわりには3人の子の親になっている2人は、いったいどんな夫婦生活を営んでいるのか……? 香蘭&志季とは真逆、想像以上に素直じゃなくて艶っけの足りない関係だけど、その結びつきはとても“らしく”てキュンとしてしまう。そのほか気になっていた人たちのその後がふんだんに描かれているので、ファン必読の一冊である。

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 そして同日刊行されたのが読み切り5編を収録した『イヴの秘めごと』(仲野えみこ/白泉社)。優しくて賢く聖人君子のような人なのに、なぜか自分のことだけを嫌うクラスメートの男子と、人類滅亡後の地球で2人きりになってしまったら……? という表題作から始まり、さまざまなすれ違いの恋を描き出す。

 モサっとした幼なじみの女子が突然、正体を隠してグラビアアイドルデビューし、誰にも気づかせまいと焦る男子。子供は好きだけど成長した女性は嫌い、という複雑な男子に惹かれていく子供嫌いの女子。

 はたから見れば、自分の気持ちに正直になればいいだけの話。けれど、嫌われているかもしれないという不安を抱えている相手や、自分の気持ちが変化していることにすら気づけないほど身近な相手への恋心ほど、育てていくのは難しい。関係を変える一歩を、それぞれどう踏み出していくのか? 相手を思うほど臆病になっていく恋模様は、『帝の至宝』にも通じる。ぜひ、あわせて楽しみたい。

文=立花もも

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