人前でうまく話せない「吃音」。社会福祉士への夢を諦めそうになった著者は、どう立ち直ったのか

マンガ

公開日:2021/4/13

きつおんガール: うまく話せないけど、仕事してます。
『きつおんガール: うまく話せないけど、仕事してます。』(小乃おの:著、菊池良和:解説/合同出版)

『きつおんガール: うまく話せないけど、仕事してます。』(小乃おの:著、菊池良和:解説/合同出版)の著者・小乃おのさんは、3歳半の頃から滑らかに言葉が発しにくくなる「吃音」という症状が出始めた人だ。本書には、そんな彼女が実践してきた吃音との向き合い方や、これまで感じてきたことがマンガ形式で詳しく描かれている。

 小学生時代、「あいうえお」から始まる言葉が発しにくいと自覚し始めた小乃さん。そのため、クラスメートの前で音読するときはわざと読めないふりをし、先生に解答者として指名されても「わかりません」を言い続けていたという。それはすべて、吃音のせいでからかわれるのが嫌だったからだ。

 ただ中学、高校と進学するにつれて、彼女は徐々に吃音とうまく折り合いをつけられるようになる。モヤモヤすることがまったくなかったわけではないが、小学生の頃と比べて症状は軽くなり、音読することや授業中に指名されることも少なくなってきたため、だんだんと吃音を意識しなくなっていったという。そして高校3年の夏、彼女は将来の進路として「社会福祉士」を目指す決意をする。「はたして、吃音の自分が社会福祉士になれるのか」と不安になることもあったが、社会福祉士として生きにくさを抱える人を支援したいという気持ちの方が強かった。

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 転機が訪れたのは大学時代だ。人生で初めて接客業のアルバイトに挑戦したが、お店の忙しさに慣れず、先輩にいつ怒られるかわからないプレッシャーから、吃音の症状が出始めてしまう。また、同僚からも「話し方が変だ」とからかわれることも。この日を境に彼女は、自身の身を置く環境がいかに大切だったかに気付かされたという。当時の思いを、作中では以下のように語っている。

“働くことで役割が変わり、周囲の人や環境が変わることでどんなふうに自分が変わるかなんてわからなかった。やってみてどれだけ自分が恵まれた環境にいたのかがわかった”

 自分の中で折り合いがつけられた問題と、また向き合うことほど苦しいものはない。「いっそのことアルバイトを辞めて社会福祉士への道も諦めよう。そうすれば苦しむこともない……」と考える小乃さん。ただ、それでは根本的な解決には至らないことも知っている。そして彼女は路頭に迷ってしまう。

 そんな彼女に救いの手を差し伸べる人が現れる。たまたま選択した講義の講師を務めていた心理学教授だ。彼女は、その講師が授業内で吃音を取り上げたのをきっかけに、自分のことを相談してみようと決意する。作中でも述べているが、いままで自分の中でうまく折り合いがつけられていた彼女にとって、他者に吃音のことを相談するのはこれが初めてだ。

 いままでないほどの緊張を彼女が襲う。ただこの決意が、彼女の気持ちや吃音への意識を変化させ、もう一度社会福祉士を目指そうと思える大きなきっかけとなる。彼女はどのように相談し、教授からどのような言葉をかけてもらったのか。それは本書を手にして知っていただきたい。

 本書は決して、吃音の苦しさのみを伝えたくて書かれたものではない。吃音に関する基本的な知識や、吃音の当事者にとって「良い環境」とは何か、吃音ではない人にしてほしいこと、たとえ吃音でも思いは相手に伝えられるということを、本書は教えてくれる。

文=トヤカン

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