“ご当地自慢”は54字で十分伝わる!? 横浜、名古屋、岐阜……超短編小説に込められた都道府県の魅力とは

文芸・カルチャー

更新日:2021/4/11

超短編小説で読む47都道府県 旅する54字の物語
『超短編小説で読む47都道府県 旅する54字の物語』(氏田雄介:編著、武田侑大:絵/PHP研究所)

 読者の皆さんは、ご当地自慢をしたことがあるだろうか。小生など、ことあるごとに在住の地である横浜の良さを伝えたくなるし、長年育った愛知県や生まれた地である三重県の魅力も広めたいと云々。しかし、ただ自慢しても伝わらないもの。そもそも他者から一方的に言われたところで、魅力を感じられるだろうか。聴く側が引き込まれるようなお膳立てが必要だ。

『超短編小説で読む47都道府県 旅する54字の物語』(氏田雄介:編著、武田侑大:絵/PHP研究所)は、47都道府県各所をそれぞれに54字で描き出した超短編小説集だ。たった54字と思うかもしれないが、だからこそご当地の魅力が凝縮されており、なおかつ少しひねった表現ゆえ、考察することで一編に込められた意味を深く味わうことができる。個人的に注目の物語を紹介しよう。

【みなとみらいへ行くバスツアー。長いトンネルを抜けると、雲を突き抜けるタワーや空を飛ぶ観覧車が眼前に広がった。】

 我が横浜を題材にした物語だ。横浜港周辺に広がる「みなとみらい地区」は、ランドマークタワーや遊園地、美術館などを抱える横浜の観光地にして、商業地かつオフィス街で、またタワーマンションも居並ぶ住宅街といった多彩な魅力を持つ街。横浜の流行をけん引する、まさに未来志向の街だけにバスツアーは「皆と未来」へ行ってしまったということだ。なお、令和3年4月より都市型ロープウェイが国内で初めて常設されるが、これは物語内の「空飛ぶ観覧車」の気分を味わえるのではないか。

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【「これはとんでもないものをつってしまった」神様は、金色に輝くその魚を雲の上から名古屋城の屋根にそっと戻した。】

 名古屋城といえば屋根の上に輝く「金の鯱」を、多くの人はご存じのはず。令和3年3月に、イベントのためにヘリコプターで地上に降ろされた映像を見た人もいるのでは。この物語は、それを予測して描き出したのではと思うほどだ。ネット上ではその光景を「ルパン三世の仕業か?!」と評する声も。小生もルパンと銭形警部のやり取りとBGMが頭に浮かんでしまった。改めてこの物語を読み返すと、神様の声も銭形警部に聞こえないだろうか。「ヤツはとんでもないものを盗んでいきました」のような……。

【岐阜に送った愛知のスパイが岐阜のスパイでもあると判明。「貴様、二重スパイか!」「違います。三重のスパイです」】

 落語かよ! とはいえ、三重県生まれ愛知県育ちの小生には実に納得。読者の皆さんは、三重県を何地方と思うだろうか。中部地方であり、近畿地方でもあり、愛知・岐阜・三重で東海地方との区分けもある。小生自身は、幼少時より天気予報ではその三県の案内に馴染んでいたので、東海地方もしくは東海三県と称していきたい。なお、県内も名古屋・伊勢・関西と大きく分けて3つの文化圏があり、まさに三重の魅力なのだ。

 勿論、これらの物語には多くの空想が含まれているうえ、単純にご当地自慢とは言えない話も多々ある。なかには「皮肉じゃないか?」と思える一編も。そこで各物語には、改めて魅力を伝える「54字には収まらない○○の魅力」と題した豆知識コーナーも設けられており、更に特徴を味わえる。

 フリガナが付けられた児童書でもある本書だが、よく練られたそれぞれの物語には大人も魅了される。短文で済むなら自身でも作ってみたいと思う人も少なくないだろうし、文章を簡潔にまとめるための練習にもなる。これはビジネス文章においても武器になるはず。PHP研究所の公式HPを覗いてみると、画面上で簡単に物語を形式どおり書き出せる「54字のジェネレーター」も公開されているので、ぜひ親子で個性的な「54字の物語」を作っていただきたい。

文=犬山しんのすけ

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