認知症の人と接する時に気を付けたいこと――ナース・ケアマネの著者が、認知症の基礎知識から現場での対応のコツまでを教えます!

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公開日:2021/4/11

症状から接し方のポイントまでがわかる つまずかない「認知症ケア」の基本
『症状から接し方のポイントまでがわかる つまずかない「認知症ケア」の基本』(市村幸美/ソシム)

 暗い夜道で地面に這いつくばっているお年寄りを見つけて、ギョッとしたことがある。助け起こしてみると近所の人だったのだが、認知症で自分の家を探しているうちに転んでしまったらしく、家族のもとへと送り届けた。また別な日には、深夜に呼び鈴を鳴らされて何事かと慌てて出てみると、これまた近所に一人で暮らししているお年寄りがエアコンのリモコンを握りしめ、テレビがどうしても消えないと切羽詰まった様子で立っていた。家までついていき、テレビのリモコンで消すと大層感謝された。

 世界保健機関(WHO)では65歳以上の人を「高齢者」と定義しており、2020年現在の日本における総人口の高齢化率は28.7%で、世界に類を見ない「超高齢化社会」となっている。加齢による認知症の人は身近になっていくだろう。この『症状から接し方のポイントまでがわかる つまずかない「認知症ケア」の基本』(市村幸美/ソシム)は、認知症の人をケアする医療や介護の現場での専門職向けの教本であるが、平易な言葉で分かりやすく解説されており、私のような突然の出会いにも役に立つのではないかと思い取り上げてみた。

認知症は「病識」が低下する

 認知症が他の病気と比較して一番難しいのが、コミュニケーションを取ることだ。言葉に障害が現れるとか、日常の記憶を忘れてしまいやすいというのはもちろん、本書では「病識が低下する」点も指摘している。病識とは「病気になった」という自覚を指し、私たちは自分で体調不良を感じれば対策を講じようとする。しかし、初期でこそ「何かがおかしい」「何かが変だ」と感じていても、認知症が進行すると病識が低下するため、周りからは何か手助けが必要なのではと心配するような状況でも、助けを拒んでしまうことがあるそうだ。本人も困っているという感情を持っていても、何を困っているのかが分からず、分からないまま人に何かをされるというのは不快や不安を感じてしまうのだ。これは感情の動きとしては当然だろう。

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 また、認知症は脳の機能低下による障害でもあるため、「社会的なルールの概念が薄くなる」傾向にあるという。高齢者による万引き(窃盗)が社会問題として取り沙汰されることがあるように、「人に迷惑をかけない」「ウソをつかない」といったことができなくなり、社会の中での孤立はもちろん家族との絆さえ壊れる要因になってしまう。犯罪行為への対処とは別に、病気の治療という視点は重要だと思われる。

認知症にもいろいろなタイプがある

 その認知症であるが、本書では「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」「血管性認知症」を4大認知症として紹介している。このうちアルツハイマー型が認知症の約半数を占めるとされ、一般的に「物忘れ」と表現されるものの、「忘れる」というより「覚えられない」のが特徴で、身体機能は他の認知症と較べて保たれるとされる。

 レビー小体型の場合、記憶障害は軽度でも認知機能がそのときどきで変動したり、あるはずのないものが見える「幻視(げんし)」を訴えたりするうえ、運動機能の低下や便秘などが起きるため、身体的な介護が必要となる。

 そして先の万引きのように問題行動を起こすのは前頭側頭型で、性格の変化が目立つ一方、「毎日決まったコースを散歩する」というような「常同行動」が見られ、記憶は比較的保たれる傾向があることから、他の認知症と較べると介護や医療に結びつけるのが難しい。最後の血管性の場合は、脳出血や脳梗塞などの脳血管障害に起因するため、まひが体に現れて、その症状は脳の障害された部位によって大きく異なるという。

家族はケアするチームの一員

 さて、本書は専門職に向けて書かれた本なので、介護施設や介護サービスを利用する人とその家族との接し方についても解説されている。本書を紹介するにあたって、もっとも重要なのは、この章だと私は思った。というのも、専門職の人たちがどのように考え、どんなサポートをしているのかを知れば、より認知症の人との接し方が分かるからだ。例えば自分が利用者の家族の立場だとして「絶対に転ばせないでください」と要求し、そのままを受け入れて本人を部屋に閉じ込めたり、自力で歩けるのに車椅子でばかり移動させていたりしたら心理的にも身体的にも本人のためにはならない。

 またあるいは、「何かあったときだけ連絡ください」と伝えて、久しぶりに面会したさいに状態が想像より悪くなっていたらどうだろうか。認知症は進行するしかない病気であるため、事後報告だけを希望した家族から「こんな状態だとは聞いていなかった」という苦情を受けることは少なくないそうだ。本書では「家族は認知症の人の人生を支えるチームの一員」と説き、家族の要望ばかりを聞いていると「本人に不利益を与えることがある」と注意を促している。

 認知症はだれが、いつなるか分からない。家族のみならず、私たち一人ひとりもまたチームの一員として考え参加することこそ、超高齢化社会におけるケアプランとなるのかもしれない。

文=清水銀嶺

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