子どもも先生も大変だよね。教師の本音と愛情たっぷりのコミックエッセイ『usaoの先生日記』

マンガ

公開日:2021/4/20

usaoの先生日記
『usaoの先生日記』(usao/東洋館出版社)

 正直に言えば、学校の先生が苦手だった。お気に入りの子ばかりひいきする。気分次第で叱りつける。児童を並べてビンタする(ああ、昭和……)。学園ドラマの熱血教師を見ても、「暑苦しい先生だな」としか思えなかった。

 だが、時代は変わり、学校教育をめぐる環境も大きく変化した。自分も大人になり、あの頃の先生たちよりも年上に。当時の先生がどんな思いで教壇に立っていたのか、少しは想像できるようになった。そういえば子どもの頃、「あの先生、新任? 頼りないよね」と親同士が噂していたのを覚えている。中学時代、先生がある日を境に学校に来なくなったこともあった。いろいろなものを背負い、それでも子どもたちの心に寄り添おうとしてくれていたのかなと今なら思える。『usaoの先生日記』(usao/東洋館出版社)を読んで、その思いはより一層深くなった。

 usaoさんは、今年3月まで小学校の先生をしていた29歳の女性。教師だけでなく、講師や幼稚園の先生の経験も積んでいる。さらに、Twitter(@_usa_ooo)では、不思議な生き物「うさお」が登場する「usao漫画」や日常生活を描いた 「なんでもない絵日記」を発表し、クリエイターとしても活躍中。『usaoの先生日記』は、そんなusaoさんが学校で感じたこと、子どもたちへの思いをつづったコミックエッセイだ。

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 usaoさんは、けっして完璧な先生ではない。子どもとの向き合い方がわからず、車の中で泣いた日もある。自分の思い通りにいかず、子どもたちを怒ってしまい、反省したこともあった。新型コロナウイルスが蔓延した時には対応に追われ、休校中には頭がパンクしそうになったことも。涙が止まらなくなってしまい、心療内科を受診したことまで包み隠さず明かしている。喜び、楽しみはもちろん、不安や葛藤も含めてその時々で感じた思いと真摯に向き合う姿は、誠実そのもの。だからこそ、まったく職業が違う人が読んでも、その思いに共感し、一生懸命なusaoさんの背中に励まされる。

 さらに、usaoさんは子どもたちに対しても、弱い部分をさらけ出す。運動が苦手なことをオープンにし、とび箱の授業では子どもから「よしよし」「ムリしないで」と背中をさすられる。「先生は昨日旦那さんとケンカしました」なんてことまで暴露し、小さな教え子から「あやまるべきです」と言われてしまう。大人の上から目線ではなく、子どもをひとりの人間として尊重する姿勢は、教師に限らず子どもを持つ親にも刺さるはずだ。

 そして、なによりも心を動かされるのは、子どもたちに向ける温かいまなざしだ。

悩んでいい 間違っていい いじめられてもいい 一人になっても友達とうまくいかなくてもいい 人生転んで何が悪い 失敗して何が悪い それでいい それでいいから あきらめないで 自分の人生を生きて

 すべてを肯定し、同じ目線で寄り添い、最後まで子どもたちの光であろうとする。「そうだよね、子どもだって大変だよね」「先生たちも大変だよね」──そんなusaoさんの優しい寄り添い方に、ふっと心がほどけていくのを感じた。教職に就いている方が読めば、共感のうなずきが止まらないだろう。

 そういえば、私がライターという仕事を選んだのも、先生が文章を褒めてくれたからだった。廊下を隅々まで掃除する私を見てくれて、何年経っても「あの時、偉かったよね」と言ってくれた先生もいた。子どもは、どんな言葉もぐんぐん吸い込むスポンジのような存在だ。なにげない言葉が、その後の人生を左右することもある。教員時代のusaoさんは、その責任を引き受けたうえで、子どもたちと接していたんだろうなとマンガから伝わってくる。学校の先生に限らず、仕事に行き詰まった時、子育てに悩んだ時、心を軽くしてくれる1冊だ。

文=野本由起

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