非売品の“トマトの苗”でファンが交流? カゴメ流「ファンベース」の作り方

仕事術

公開日:2021/4/16

ファンと共に歩んだ企業10の成功ストーリー ファンベースなひとたち
『ファンと共に歩んだ企業10の成功ストーリー ファンベースなひとたち』(佐藤尚之、津田匡保/日経BP)

「ファンベース」とは、自社の商品やサービスを積極的に好いてくれる「ファン」を大切にし、その人達をベースに考えることで中長期的な売上や企業価値を高めていく手法だ。2018年に新書『ファンベース』が、筑摩書房から発売されると、ビジネスパーソンの中でこの手法が広まった。『ファンと共に歩んだ企業10の成功ストーリー ファンベースなひとたち』(佐藤尚之、津田匡保/日経BP)はその本の著者・佐藤尚之氏が自社ファンベースカンパニーの津田匡保氏とともに、「ファンベース」で成功をおさめた10の企業を漫画とともにわかりやすく、インタビュー形式で紹介する(漫画はおぐらなおみ氏が担当)。

 読売ジャイアンツやネスレ、カゴメなど我々にとって馴染みのある企業がどのように「ファンベース」を作っていったのか、具体的な行動、どんなデータを参照したかなどと併せて読むことができる。

実は上位8%のコアファンで売上は持っている?「ファンベース」はなぜ有効か

「パレートの法則」をご存じだろうか。「顧客の20%が売上の80%を占めている」というのもの。ある飲料メーカーでは上位8%のコアファンが売上の45%を占め、その下のファンとで売上の90%を占めている、というデータが出たそうだ。

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 つまり、新規顧客キャンペーンを大々的に打ったとして、売上の10%しか効果がないということになる。これから人口は益々減り、高齢化が進む時代において、80%の既存顧客=ファンにフォーカスを置いたほうが売上は伸びやすいと考えられるだろう。

 今自分たちの商品やサービスを愛してくれる人を大事にした上で、さらなる売上を目指すとなるとクチコミによる伝播の力はあなどれないそうだ。

「本当に良い」と思って広めてくれる、ファンの熱意とまっすぐな気持ちは、身近な人(=類友)に伝わる。ファンが新規顧客を連れてきてくれるという現象が起こる。

 本当だろうかと思うかもしれない。例えば、ファンが100人いるとし、その類友が関係の強弱を含めざっと150人くらいと仮定しよう。

【一次波及効果】
100人×150人
=1万5000人

 それだけで1万5000人。さらにその3%が熱意を持ってクチコミすれば、「二次波及効果」で8万2500人にも達するという(詳しくは本書で確認してもらいたい)。SNS広告を打ってこれだけの効果を得るのは中々大変だが、「ファンベース」なら、時間はかかっても、濃く熱く伝わっていく。

「トマトの苗」でファンが交流? 例えばカゴメの場合

 既存ファンが多い「カゴメ」はファンベースで成功した企業のひとつだ。売上が伸び悩んだ時期、今まで商品を愛してくれた「カゴメファン」を大事にしようと決意。ファンと交流する「&KAGOME」というコミュニティーサイトをオープンさせた。特に会員が増えたきっかけとなったのが「トマトの苗のプレゼントキャンペーン」だそうだ。私も知らなかったのだが、カゴメのトマトジュースは市販されていないオリジナルの品種が使われている。その苗が抽選で当たるキャンペーンは20年以上も続き、毎年大変人気なのだとか。しかし、届いた時点でファンとの関係が切れてしまっていた。

 ここに目をつけ、「トマコミ」という、苗を育てる人が写真を載せるギャラリーや掲示板、プロのアドバイスなどを掲載するコーナーを作成。トマトの苗を介してコミュニケーションが生まれたそうだ。

 既存のブランド(この場合カゴメの商品)やキャンペーンなど、今あるものに着目すれば、「ファンベース」をもり立てていける。

 新たなサービスの場合も同様だ。まずファンを獲得することを目指すことで、ファンベースを行える。「ADDress」や「ネスカフェ アンバサダー」などは、サービス開始時からファンを作り出すことで展開してきた。具体的な方法は本書を参照してほしい。

 超高齢化社会、人口減少、市場の熟成と飽和……現代日本はさまざまな問題を内包している。個人でもこれから「ファンベース」な考え方はどんどん大切になる。漫画にもぎっしりと情報が詰まっていて、パラ読みでも理解しやすいのが嬉しい。伸び悩んでいる企業や担当者、個人まで幅広く役に立ってくれるだろう。

文=宇野なおみ

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