「命の恩人は、殺人犯でした。」怒涛の展開に絶句! 児童養護施設で暮らす三姉妹の家族をめぐる驚愕の過去と残酷な運命は…

文芸・カルチャー

公開日:2021/4/23

バラバラ家族の遺言
『バラバラ家族の遺言』(黒瀬木綿希/文芸社)

 愛は容易く憎悪になる。特に信じていた者に裏切られた時、人は気持ちのやり場に困り、相手を恨むことでどうにか自分を奮い立たせようとする。たとえば、親子関係においても、それは同様だ。愛していた母親が突然失踪した時、子どもは何を考えるのか。そして、母親は子どもに何を思うのか。黒瀬木綿希氏のデビュー作『バラバラ家族の遺言』(文芸社)は、児童養護施設で暮らす三姉妹を描いたサスペンス。不器用な家族愛を描き出した衝撃作だ。

 主人公は中学2年生の向井二葉。彼女には双子の姉・市夏と、小学6年生の妹・美優がおり、突然母親・睦子が失踪してからというもの、姉妹3人、児童養護施設で暮らしてきた。そんな彼女たちを、資産家の中年男・石原守は養女に迎えたいという。市夏と美優はまたとない話に前向きだが、二葉だけは不安を感じていた。二葉は知っていたのだ。かつて母親が失踪する前、石原が借金の取り立てにきたことを。石原がヤクザであることを…。

 二葉は姉妹の中で誰よりも強く母を恨んできた。児童養護施設に入ってからというもの、「自分が幸せになることで母親を見返したい」と勉学に励んできた。目指すは、椿坂高校。母親もかつては通いたいと願いながらも叶わなかったこの高校への入学は、きっと母親を見返す第一歩となるに違いない。だが、椿坂高校は偏差値が高いだけでなく、入学に際し、身辺調査もあるらしく、児童養護施設で暮らす二葉にとってはかなり不利だ。母親への復讐のため、信用できるかわからない石原を利用すべきなのか。二葉がひとり思い悩んでいたその時、彼女の前に謎の女性が現れ、三姉妹の運命は大きく動き出していく。

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 本の帯には「命の恩人は、殺人犯でした。」とのコピーが躍る。「命の恩人とは?」「殺人犯とは?」と疑問に感じながら物語を読み進めていたが、次第に明かされていく二葉の家族の真実には驚かされた。だが、それだけではなかった。「家族」の秘密が明かされたのも束の間、三姉妹を大きな事件が襲う。クライマックスにかけての怒涛の展開には息もできない。これはハッピーエンドなのか。どう受け止めればよいのか。どういう感情を抱いていいのかさえわからなくなってしまう。

 この物語には、明確な悪役もいなければ、正義の味方もいない。登場人物の一人ひとりが、大切な人たちを守るために、自らが正しいと思う道を突き進んだだけなのだ。正義の反対は、また別の正義ということなのだろうか。誰かが正義と信じた道も、また別の誰かにとっては極悪非道という場合もある。この物語を読めば読むほど、何を正義と呼び、何を悪と呼べばよいのか、わからなくなってしまう。

 三姉妹の家族をめぐる驚愕の過去と、残酷な運命…。あなたはこの物語のクライマックスをどう意味づけるだろうか。この物語の衝撃が今も胸から消えない。

文=アサトーミナミ

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