SNSで泣けると噂! NHKみんなのうた「キミと歯のうた」が原案となった絵本が、本当に泣けるのか読んでみた

文芸・カルチャー

公開日:2021/4/27

キミとはのうた
『キミとはのうた』(平山カンタロウ/KADOKAWA)

 SNSで「泣ける」と評判の、NHKみんなのうた「キミと歯のうた」。その歌が絵本になったらしい。

 いやいや歯で泣けるって、歯医者の音が怖いアレか? おじさんでも泣けるのか?どういうことだと疑問に思い早速読んでみた。最後のページには歌詞も全部載っていて歌って読めるらしい。

(そもそもその「NHKみんなのうた」のほうを知らなくてもいいのか? とも思うが、それは読んでから聴くことにする。)

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 物語は子どもの口から始まる。様々な表情の乳歯たちがいる中、ギターを抱えて歌う、そばかすなんてヘッチャラなあの少女のように目を輝かせた乳歯がひとり(?)。彼こそが主人公であり、乳歯たちの目線で話は進んでいく。

 その乳歯くんが「もっと噛め」だの赤ちゃんを心配し、歯の膝枕で寝かしつけるなど甲斐甲斐しくお世話をしてくれるおかげで、赤ちゃんはすくすくと大きくなる。早いものでもう小学生だ。

 だがこの頃、ひとつ避けて通れない、子どもを恐怖で怯えさせるイベントがある。そう、乳歯が抜けて永久歯に生え替わるのだ。仲間の乳歯がひとりまたひとり(?)とさよならしていく。下の歯は空に放られ、上の歯は金魚の墓の横に埋められたかもしれない。

 びっくりして絶叫したであろう子どもを見守り、別れを告げる仲間を見送りながら、最後の最後にお別れをするのが例のギタリストの乳歯くんだ。今まで一緒に過ごした赤ちゃんも大きくなって、乳歯くんはもう一緒にはいられない。

 噛みやすいように炊飯器でにんじんを炊き、すり鉢でほうれん草をグリグリ頑張って潰したにも関わらず、全部口から吐き出したキミと。座って歯を磨けと何度言われても歯ブラシを咥えて走り回り、最後尻を引っぱたかれて大泣きしても翌日また繰り返すキミと。もう一緒に過ごせないのだ。

 学校に行きだしたら、もう、こどもの成長は早い。幼稚園生、小学生ともなると、親なんかより友達と遊ぶ方が楽しいだろう。お父さんなんて週末は財布へと変わり果てる。

 だが一緒に出かけられるうちはまだいい。そのうちダイエットしてるから夕飯いらないとか言い出し、ウザがられ顔も合わせなくなる日がくるかもしれない。昔は「パパ大好き!」なんて甘えて膝の上に乗ってきたのに。きっと乳歯くんも同じ事を思っているかもしれない。今にも泣きそうだ。

 そんな泣きそうな状況で、この絵本には救いもある。大人の歯の登場だ。さすが大人、力強い出で立ちである。これはぜひイラストで見てほしい。

 だがそれは絵本での救いであって、父親にとって救世主ではない。「娘をキミに任せるよ」と父親からバトンを渡される立場の人間……いつか愛娘をかっさらっていくアイツが被って見えるのだ。

 誰でも親から生まれてきたし、自分が親になることもある。様々な感想があるかもしれないけれど。

 分かった。これは泣ける本である。

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