サークルの女神をストーカーから救え! オタクボーイの暴走する恋模様を描いたノンストップ青春ストーリー

文芸・カルチャー

公開日:2021/4/24

きみがいた世界は完璧でした、が
『きみがいた世界は完璧でした、が』(渡辺優/KADOKAWA)

 恋なんて大概が自己中心的。目の前の相手をまっすぐ愛せているかというと、怪しいものばかりだ。自分の期待を相手に押しつけてしまうのはよくあること。結局は独り相撲。勝手に妄想して、勝手にこちらが突っ走っていただけだったというのは、片想いをしたことがある人の多くが経験するところではないだろうか。

『きみがいた世界は完璧でした、が』(渡辺優/KADOKAWA)で描かれるオタクボーイの恋も、まさに暴走気味。一途すぎるために、ちょっぴり狂気じみてさえいるその恋の行方に目が離せなくなってしまう1冊だ。

 主人公は、ゲームオタクの大学生男子・日野春人。彼は偶然訪れたサバゲーサークルの新歓で宮城絵茉に恋をした。絵茉は、日野が中学時代に熱中していたゲームのヒロイン・エリナにそっくりなのだ。だが、2度告白するもあえなく玉砕。フラれた彼は、絵茉を遠くから見守ることにした。絵茉のSNSを逐一チェックする中で、日野は、彼女に対して不穏なコメントを残すアカウントの存在に気づく。さらには、サークルの部室に、絵茉の盗撮写真がバラまかれるという事件まで発生した。泣いている絵茉の姿を目撃した日野は、彼女をストーカーから守ることを決意し、犯人を特定しようとするのだが…。

advertisement

 妄想たくましい語りで進められていくこの物語の中で、読者は、日野に何度ツッコミを入れればいいのだろう。「かつて恋したゲームキャラに似ているから」という理由で絵茉に恋をし、絵茉とかかわるたび、ゲームキャラ・エリナとの冒険を思い出していく日野は、まったく本当の絵茉の姿が見えていない。そして、それに彼自身気がついていない。勝手に突っ走ってしまっているのだ。そして、絵茉にフラれても、「お付き合いとかそういうのはもう、望んでない。ただ彼女を想い続けるのは変わらない」なんて親友・ヤマグッチに宣言する始末。友人たちと同様、読者たちも、「コイツ、大丈夫なのか!?」と、ちょっぴり不安になることだろう。

 だが、日野の姿はなんとも憎めない。いつのまにか彼から目が離せなくなっている自分に気づかされてしまうのだ。ストーカーのSNSの情報解析を引きこもりの友人・ザラキに相談するも、「無理だよ。普通に」「俺は別にスキルとかないインプット専門のオタクだよ」なんて言われてしまったり、カメラを部室に仕込もうとするも、ヤマグッチに「部室盗撮するん?」と言われ、ようやくその行動が盗撮になると気づいたり…。とにかく日野は空回りしてばかりいるのだ。絵茉への執着レベルは、もはやストーカー並みのような気もして、呆れさせられることもしばしば。でも、やることなすこと、ちょっぴりズレている日野のことを、なんだか放っておけないような気になるのだ。

 攻撃を続けるストーカーと、それを追う日野たち。意外なストーカーの正体…。クライマックスでは、ちょっぴり成長した日野の姿にじんわりと感動させられた。ひとりの青年が少し大人になっていく。少し現実と向き合えるようになる。ハラハラドキドキさせられるこの純度100%のノンストップ青春ストーリーを、ぜひあなたも読んでみてほしい。日野の空回りする恋をぜひとも見守ってあげてほしい。

文=アサトーミナミ

あわせて読みたい