25歳メイク初心者がメイク上手な男の子と出会い…モラハラな彼氏からも自己肯定感低めな自分からも解放される!?

マンガ

公開日:2021/4/25

『顔に泥を塗る』(ヨシカズ/竹書房)
『顔に泥を塗る』(ヨシカズ/竹書房)

 ひとりの女性が“メイクで人生を取り戻す”ストーリーが『顔に泥を塗る』(ヨシカズ/竹書房)である。

 主人公は25歳で、メイク下手が悩みの柚原美紅。仕事では必要なのに、彼氏が化粧をしている女性が嫌いというのもあり、葛藤する毎日だった。ある日彼女は、メイク好きな男の子・高倉イヴと出会う。

彼のために自分を犠牲にするのはダメだよ
結婚したってお姉さんの人生はお姉さんのものなんだから

 本作は、こんな発想もなかった自己肯定感の低い女子が自分を解放していく物語である。

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「どうしたら正しい顔になれるんだろう」 25歳女子の悩み

 童顔で清楚、と言えば聞こえはいい。ただ美紅本人は地味な自分に不満を抱いていた。とはいえ彼氏のはるには「メイクが上手くできないならしなくていいんじゃない」と言われ、勤務先のデパートの上司には「その年ならきちんとしろ、少しは努力しようって思わない?」と、くどくどと言われる日々に疲れていた。

「もう化粧は下手なままでいいのかも…ハイスペック男子のはると結婚して、仕事を辞めるなら」そう思っていた矢先に、ひょんなことからイヴに出会う。“彼”はきっちりと美しく仕上がったメイクをしていた。思わず美紅は口にしてしまう。

あっ
赤リップ!
とってもお似合いです!!

 言わずにはおれなかったのだ。すごく綺麗にメイクをしていることに感動したから。イヴは素直に喜ぶ。イヴは、恋愛対象が男でもなく女になりたいわけでもない。シンプルに「メイクが好きなだけ」。だが、それだけを受け入れてくれる人は少なかった。そんな中で出会った美紅は「リップがとっても似合っている」と褒めてくれた。自分の単純な動機を受け入れてくれたのがうれしかった。彼はまっすぐな瞳でこうも言う。

僕はメイクをすることでその日なりたい自分になるんだ

 この眩しいくらい自由な年下の子に、試しに…と綺麗にメイクを施される美紅。「人の反応は気になる、でも自分が好きなようにするべき」と。彼は美紅に好きな色のリップを選ばせた。その出来栄えとイヴのキャラクターに心を動かされる美紅。「生まれて初めてメイクをした自分の顔を綺麗だと思えた」「自分が窓に映るたび胸がときめいていた」彼女の中で、何かが動き出す…。

私のメイクを決めるのは誰?

男の人が好きな色は?
仕事で使っていい色は?
友達に褒められる色は?

私は今日も正解の色を探している

 イヴに施された美しい魔法のようなメイクも、彼氏のはるにとっては…だった。化粧はさまざまなものを厚く塗り重ねただけ。「顔に泥を塗っただけ」でしかなかった。しかし自分の好きなものに気付いた美紅は、これまでのこと、これからのことを考えるようになる。

 自分を犠牲にしている気はなかった。好きでやっていたし好きだからやっていたはずだった。ただイヴの言葉に揺れ、本当は好きだったメイクをしたいようにできないこと、自分の不自由さを認識する。そしてはるの言うことを何でも聞き、彼に尽くして褒められる今の生活は正しいのか疑うようになる…。一歩ずつ踏み出す勇気をメイクからもらう美紅。

 自分の彼女のメイクを褒めないという彼氏の話を聞き、憤るイヴは美紅を気にかけるようになる。自由で、メイクによって彼女を解き放とうとしてくれる彼と美紅。2人が一緒にいる前にはるが現れる。単行本1巻では徐々に登場人物たちの性格が明らかになっていき…彼らと美紅の今後の関係にも注目だ。

 最後にイヴの原体験である母のメイクの描写を引用する。

顔にブラシがあたるたび
まるで花が一つずつ開花していくように色が咲く
人の顔の上で美しい色彩が広がっていく

 あなたの顔は自分のものだ。自由に自分を彩って魅せていい。恋人にも親にも友人にも、それをやめさせる権利などない。メイクはけして「泥を塗る」行為ではない。本作はそれを教えてくれる。

文=古林恭

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