「交渉事では相手側に来社させるべし!」 日本の常識の逆をゆくニューヨークの弁護士の交渉術がスゴい

仕事術

公開日:2021/4/27

どんなときも優位な状況をつくれる 負けない交渉術

 ビジネスにおいて交渉事を行うときは、交渉場所を自分の会社にして、相手側に来社してもらうべし。会社にとって重要度の高い交渉には、社長や重役は出ないほうがよい。

 この2つは『どんなときも優位な状況をつくれる 負けない交渉術』(大橋弘昌/朝日新聞出版)に書かれていた交渉テクニックなのだが、「え、それ逆じゃない?」と思う人が多いだろう。

 しかし本書を読むと、「たしかに著者の言う通りだ」と考え方が変わるはずだ。

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 まず「交渉相手に来社してもらうべし」という考えの背景には、「交渉事で相手のために多くの時間を費やした人は、『その時間をムダにしたくない』という思いから、多少の譲歩をしてでも成約を目指したくなる」という人間心理があるという。

 わざわざ相手の会社を訪れて、時間をかけて交渉したら、誰でも「手ぶらで帰るわけにはいかないよな……」という心理が生まれるだろう。その相手方の心理を呼び起こすためにこそ、著者は「できるだけ相手に来てもらいましょう」と助言するのだ。

「重要な交渉には社長や重役は出ないほうがいい」については、著者は「最終決定権者が現場にいなければ、『私の一存ではそれは決められません』『社長がいないので、ここまでしか譲歩できません』と言い訳ができるから」と説明する。つまり、「交渉の参加者が権限を持っていないこと」を逆手にとって、交渉事を有利に進められるのだ。

 これも考えれば納得の話だが、日本企業の社長や重役は、国際取引の場を「晴れ舞台」のように感じて自ら出席し、相手の思うつぼにハマってしまうケースもあるとのことだ。

 本書の著者は長年ニューヨークで日系企業の大型契約をまとめてきた弁護士。だからこそ、この本で披露される交渉のテクニックは日本のビジネスの常識とは逆のものが目立ち、新鮮な驚きを感じる話が多数ある。

 また著者は自分に利する交渉テクばかりを紹介するわけでもなく、「交渉では、まず自分が『勝った』気分になることが大事です。そして相手にも『勝った』気分になってもらうことも大事なのです」とも書いている。自社が金銭的に大きな利益を獲得するのみならず、気分の面でも「Win-Win」の関係を目指すことを推奨している点で、本書は非常にフェアな本といえるのだ。

 また交渉テクに関係なく、本書の中で面白かったのが、「解雇しやすい雇用制度が米国企業にダイナミズムをもたらしている」という話だ。

 解雇のしやすさゆえに、経営に失敗した米国の企業は規模縮小のために即座に解雇を行えるし、切られた優秀な人材はベンチャーに流れる。ベンチャー側も「失敗したら解雇で規模縮小」の逃げ道があるからこそ、積極採用ができる……と著者は説明する。

 これも日本の常識とは違うがゆえに、驚きと深い納得感がある話だ。そして「社内にダブついている人材がいるけど、簡単にクビを切れない→ジリ貧の状況に歯止めがかからない」という話は日本企業で働く人から非常によく聞く。

 ニューヨーク州の弁護士が書いた本書は、終身雇用制を引きずった日本企業の“社員を守る”振る舞いが、日本経済全体をジリ貧にしているんだな……とあらためて感じさせてくれる本でもあった。

文=古澤誠一郎

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