猫好き必読! 家出した茶トラが夜の闇にいざなわれ、向かった猫の国とは……

文芸・カルチャー

公開日:2021/5/1

なぁなぁ、あそぼ~!
『なぁなぁ、あそぼ~!』(さいとうしのぶ/岩崎書店)

 猫と一緒に暮らしていて、在宅勤務の方たちは、こんな悩みを抱えていないだろうか? 猫と同じ空間で仕事をしていると、膝の上でまるまられる。というだけなら、重さを我慢すれば済むけれど(しかもちょっと幸せ)、机の上に飛び乗られれば、キーボードは打ちづらいし、ちょっと目を離した隙に意味不明な文字列が並んでいたり、リモート会議に乱入されたり。かといって、パソコンにばかり向かっているから拗ねているのかな、と相手しようとすればひらりと逃げていったりする、等々…その悩ましさも含めて猫の可愛さでもあるのだが、とかく気まぐれで気分屋な猫。そんな猫たちに世界はどう見えているのか――絵本『なぁなぁ、あそぼ~!』(さいとうしのぶ/岩崎書店)は関西弁をしゃべる(?)猫の視点で描きだす。

なぁなぁ、あそぼ~!

 主人公は茶トラの子猫。チョウチョをふらふら追いかけているうち、見知らぬ土地にきてしまった茶トラは、偶然出会ったおかっぱ頭の女の子に「おなかへったし、もううごかれへん。たすけてぇ!」とじゃれつきまわす。家に連れて帰ってもらい、ちょっとひとやすみのつもりが、いつのまにか飼い猫に。おいしいごはんに、あたたかい寝床。いつも一緒に遊んでくれる女の子=おねえちゃんとの日々はこの上ない幸せだ。

 けれど、茶トラの成長とともに大きくなっていったおねえちゃんは、だんだん遊んでくれなくなる。茶トラ以外に夢中なものが増えていく。お絵かきしているおねえちゃんの、画用紙の上に寝転んだり、ピアノを弾いているおねえちゃんの横で、大声で歌ったり。こんなにすごいことができるんだぞ! と見せつけるようにカーテンをよじ登り、プレゼントしようと花壇のお花をひっこぬく。遊んで、遊んで、とじゃれつく茶トラの行動すべてが、おねえちゃんを苛立たせていく。からまわってばかりの茶トラはついにおねえちゃんを引っ搔いて泣かせてしまい、思わず家を飛び出すのだけれど……。

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なぁなぁ、あそぼ~!

 それまでお日様の光に満ちた世界で、あたたかく描かれていた茶トラの世界は、一転して夜の闇に包まれる。その対比に、読んでいてドキッとさせられる。お日様の下で出会ったのは優しいおねえちゃんだったけど、夜の世界で茶トラが出会ったのは、闇に溶けてしまいそうにまっくろな猫。「人間なんてそんなもんや」とあきらめた様子の黒猫にいざなわれ、茶トラは猫の国へと足を踏み入れていく。

なぁなぁ、あそぼ~!

 赤提灯のさがった立呑屋の暖簾をくぐり、パラソルの下で月光浴をし、キャッツシアターの舞台に立つ。砂温泉はごろごろいい気持ちだし、見たことのないごちそうも食べ放題。欲しいものはなんでも手に入るその国で、猫たちは人間なんて必要とせず、心行くままに楽しんでいる。茶トラもすっかりご機嫌、だけど、本当に欲しいものは…………。

 関西弁のおかげか、猫たちの気持ちがよりまっすぐに伝わってきて、茶トラの大冒険がとにかくかわいく愛おしく感じられる。猫の国では、子どもから老人までありとあらゆる毛並みの猫たちが遊んでいるので、読者にとって大事な子や、道端でいつも見かけるあの子にそっくりな猫もきっと見つかるだろう。姿が見えないとき、もしかしたらあの場所で遊んでいるのかも……と想像するだけでも楽しい絵本である。

文=立花もも

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