家庭料理は「要領よく、力を抜いて」。土井善晴さんによる、料理の「そもそも」

暮らし

公開日:2021/5/8

NHK出版 学びのきほん くらしのための料理学
『NHK出版 学びのきほん くらしのための料理学』(土井善晴/NHK出版)

 コロナ禍で、家庭料理のあり方はさらに変化してきたかもしれない。外食の機会が減り、自宅にいる時間が増えた分、料理に楽しみを見出す人もいれば、ウーバーイーツなどで日々の食事を済ませている人も多いだろう。

『NHK出版 学びのきほん くらしのための料理学』(土井善晴/NHK出版)は、そんな現代社会で、改めて「家庭料理」を見つめ、「料理とはなにか」という根源的な問いに迫る。その道40年の料理研究家である土井善晴さんの集大成にして入門の書だ。

“料理の「そもそも」を知り、暮らしの意義と構造を知ることで、要領よく、力を抜いて「ちゃんとできる」”

 そう言う土井さんは、スイスやフランスのレストラン、日本の懐石料理店で料理をするなかで、「家庭料理」の大切さや楽しさを知った。

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 料理には「暮らし(日常)の料理」と「特別な日(非日常)の料理」があるという。

「非日常の料理」では、きれいであることと、時間をおいても安心して食べられることが重視される。正月のばら寿司やおせちでは、雑味を除き、栄養価を損ねたとしても、きれいで安心に仕上げてきた。神様のために、感謝を込めて、華やかに飾ってきた「非日常の料理」は大切で、土井さんは「非日常」が清らかではないステーキや大トロの握りなど、本能的快楽を満たすためのものになってきたことを憂いている。

 一方で「日常の料理」では、土井さんは「一汁一菜」を提案する。

“家族がいれば、たとえ忙しくても料理をしなければいけないのが家庭料理です。だからといって、なんとか誤魔化してでも頑張ることは、辛さにつながります”

 ご飯を炊いて、味噌汁を作り、漬物があれば完成だ。余裕のある人は、楽しみとしておかずをたくさん作ればいい。まずは「一汁一菜」をきちんとお椀によそい、お皿に載せ、できれば本書の表紙イラストにあるように、お膳に整える。心を落ち着かせられるだけでなく、食品ロスをなくし、地球を労ることにもつながる。

 料理は、風土とどのように関わっているのか。柳宗悦らが提唱した民藝のような美意識は、どこに見出せるのか。料理はおいしくないといけなかったのだろうか。

 私たちの身体をつくる「料理」。生きていくうえで欠かせないからこそ、毎日の食事を作ることにプレッシャーや負担を感じてしまう。しかし本書を読めば、そうした観念が覆されるだろう。肩の力を抜いて、今晩からの家庭料理を、豊かなものにしよう。

文=遠藤光太