手術室専門の看護師、通称「オペ看」への配属を希望した新人看護師のあきこ。そんな彼女を待ち受けていたのは……

マンガ

公開日:2021/5/20

オペ看
『オペ看』(人間まお:原作、ミサヲ:漫画/講談社)

 本作のタイトル、『オペ看』(人間まお:原作、ミサヲ:漫画/講談社)だけを見て正式名称がわかる人はきっと少ないだろう。オペ看とは「手術室(オペ室)看護師」の略称だ。基本的に手術をおこなう患者としか関わることがなく、入院患者と関わる「病棟看護師」とは、仕事内容も関わる時間も大きく異なる。本作は、そんな彼らにスポットを当てて描かれた珍しい作品である。

 主人公で新人看護師の林あきこは、たまたま観ていた医療ドラマの手術シーンで、てきぱきと仕事をこなすオペ看に魅了され、手術室配属を希望する。ちなみにリアルな世界で、オペ看を希望する新人看護師は珍しい。なぜなら「新人看護師はまず、病棟看護師として経験を積むのがセオリー。オペ看と病棟看護師では業務内容がまったく異なるので、最初からオペ看に配属されると異動時に苦労する」といわれているからだ。また学生時代におこなわれる看護実習でも、手術室は見学するだけなのでそこでの実戦経験は積めない。そのため、誰もが少しでも知っている領域を選択するのだ。友人からも「止めた方がいい」とアドバイスされるが、彼女の意志は固かった。

 しかし、彼女を待ち受けていたのはドラマとはかけ離れた壮絶な世界だった。そもそもオペ看は、手術がおこなわれている間、皮膚の切断面や血や皮膚の焼ける臭いにも平然としつつ、高い集中力を持って執刀医とスムーズな連携を取らなくてはならない。手術内容によっては5、6時間を超えることもある。トイレ休憩が取れるケースもあるが、それでも彼らはこのような環境下で、高い集中力を保ったまま長時間働かなければいけないのだ。

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 そんな世界に飛び込んでしまったあきこ。案の定、勤務初日から圧倒されまくる。下肢切断の手術を見学したとき、あきこは切断されている脚やそれを平然とした顔で見る医師と看護師を目にし、気を失いそうになる。しかし教育担当の加藤からは「そんなことで倒れるな!」と怒られてしまう。別の手術でも、あきこは加藤から容赦なくダメ出しを受けショックを受けてしまう。新人とはいえ、手術に立ち合っている以上、甘えは一切許されないのだ。

 僕は、そんな彼女達を見てあることを思い出した。それは、自分が新人看護師だったとき、鬼のように厳しかった先輩看護師からいただいた言葉だ。よく「そこまで怒る必要なんてないだろう……」と思っていたが、研修期間を終えるころに彼女は僕にこう告げたのだ。「いままで厳しくしてきたのは、あなたに命の重さを感じながら仕事をしてほしかったからだ」と。僕はその思いを知ったとき、とても良い先輩と出会っていたことに気付いた。きっと加藤も同じようなことをあきこに伝えたくて、厳しくしているはず。そういう視点で作品を読み進めると、あきこはとても良い教育担当に出会ったのだと強く感じられる。本書では他にも、オペ看以外の医療従事者(医師、麻酔科医)や患者がどのような思いで手術に臨んでいるのかを具に描いているので、ぜひそこにも注目していただきたい。

 ちなみにもう1つ、あきこがオペ看を志望する理由が本作では描かれている。それは、イケメンドクターと知り合える可能性が高いからという、なんとも滑稽な内容だ。実は彼女、いままでヒモ男としか付き合ってこなかった過去を持っており、就職を機にドラマのようなかっこいいオペ看へと成長し、いい男を捕まえて人生を挽回したいと意気込んでいる。果たしてその夢は叶うのだろうか。こちらも含め、これからも彼女を見守っていこうと思う。

文=トヤカン

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