少しの治療の遅れが、患者の人生を大きく変える。一刻の猶予も許されない脳の病気に立ち向かうエリート脳外科医の物語

マンガ

公開日:2021/5/21

アンメットーある脳外科医の日記ー
『アンメットーある脳外科医の日記ー』(子鹿ゆずる:原作、大槻閑人:漫画/講談社)

「脳血管疾患」という言葉をご存じだろうか? 脳血管疾患とは、脳にある血管に異常が生じたことで起こる脳・神経の病気を総称した言葉で、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などが代表例だ。実は脳血管疾患は、「悪性新生物(がん)」「心疾患」「老衰」に続いて日本人に多い死因である。また、少しの遅れが患者に麻痺や不随などの後遺症を残すリスクも高く、迅速な対応が求められる分野と言える。

『アンメットーある脳外科医の日記ー』(子鹿ゆずる:原作、大槻閑人:漫画/講談社)は、そんな脳血管疾患の分野で奮闘する医師を描いた医療漫画である。物語や登場人物はフィクションではあるものの、さまざまな脳の病気と向き合う現場の緊迫感、時間との勝負の描かれ方は、実にリアルだ。

 本作の主人公はエリート脳外科医の三瓶友治。物語は、彼がアメリカ合衆国にあるフィラデルフィアの大学病院をクビになるシーンから始まる。彼の飼っていた研究用のラットが逃げ出し、患者の点滴のチューブをかじったことが原因だった。そんな彼の次の勤務地は日本。もう1人の主人公、総合診療科の医師・川内ミヤビが働く丘陵セントラル病院だ。

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 勤務初日、川内から病棟案内を受ける三瓶。2人が救急救命室を訪れると、1本のホットライン(非常用直通電話)が鳴る。「血圧190、左半身に麻痺が出ている30代男性を受け入れてほしい」という内容だった。血圧190で麻痺ありの状態は、命を左右する危険な状態。しかし、救急救命科の部長・星前は断ろうとしてしまう。なぜなら丘陵セントラル病院の救急科は、人手不足により軽症の患者しか受け入れていないからだ。重症患者は他の病院に送る決まりになっている。にもかかわらず、三瓶は星前から受話器を奪い、すぐこちらに運ぶように指示してしまう。耳にした情報から、一刻の猶予も許されない脳の病気であると判断したのだ。案の定、運ばれてきた患者は脳ヘルニアと診断され、緊急手術適用となった……。

 本来なら、他科の医師の判断を無視して患者を受け入れることなどあってはならない。リアルな世界で三瓶のような真似をする医師はいないだろう。ただ、脳の異常が疑われる患者を救うには、迷っている暇などないのも事実である。冒頭でも述べたように、脳血管疾患はたとえ命が救えても少しの遅れで後遺症が強く残るリスクがあるのだ。三瓶も作中でこのように述べている。

「ほんの少しの遅れが、その後の人生を大きく左右するんです」

 かくして、三瓶の指示で丘陵セントラル病院に運ばれてきた患者は、後遺症もなく助かるのだろうか?

 また、本作の魅力は「エリート脳外科医が患者に高度な手術を施して終了!」という結末で終わらないところにもある。外科領域の漫画やドラマの多くは、手術シーンがメインに描かれがちだが、本作は手術後の患者と医療者の関わりもしっかり描かれている。1巻では障害者雇用促進法に触れられており、後遺症が残った患者が仕事に復帰できることに喜ぶシーンでは、自分事のように「良かった……」と安堵してしまった。

 また巻末では、三瓶の机から若いころの三瓶と川内が一緒に写った写真が発見される。そういえば、そもそもなぜアメリカの大学病院で働くほど実績がある三瓶が、日本の大きな大学病院ではなく丘陵セントラル病院に赴任したのか疑問だ(ラットを逃がしたことが原因でどの病院も雇ってくれなかった可能性もあるが……)。現状、その点については描かれていない。やはり川内が関係しているのだろうか? 今後がとても気になる漫画である。

文=トヤカン

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