“フツウ”かなんて気にしなくていい! 生きづらさを抱えるすべての人へ送る、不登校の「その後」の実録コミック

人間関係

公開日:2021/5/7

実力も運のうち 能力主義は正義か?
『学校へ行けなかった僕と9人の友だち』(棚園正一/双葉社)

 学校に通おうが、通えなかろうが、それだけでは人生は決まらない。たとえ学校に通えず、不登校になったとしても、かけがえのない出会いが待っている。悩み抜いた先に、必ず自分だけの道がつながっているのだ。

『学校へ行けなかった僕と9人の友だち』(双葉社)は、マンガ家として活躍する棚園正一さんが自らの不登校と「その後」の経験を描き出した実録コミック。NHK Eテレ、LINEニュースのほか、各メディアで話題となった前作『学校へ行けない僕と9人の先生』(双葉社)に連なる物語でもある。少年時代の棚園さんが挫折を繰り返しながら、それを乗り越えていく姿に、多くの人が勇気づけられるに違いない。学校に通わなくても、人との出会いが、自分へ道を見つけ出す手がかりになるということを、この作品は教えてくれる。

 棚園さんが不登校になったのは、小学校1年生の時に担任の先生から殴られたのがきっかけだった。それから、学校がある朝はフトンから出られなくなり、時には苦しみのあまり幻覚が見えることもあったが、学校の先生やカウンセラーとの出会い、さらには、憧れのマンガ家・鳥山明先生との出会いによって、マンガ家になることを本格的に目指すようになった。だが、棚園さんはすぐには変われなかった。「学校に通えない」ことへの負い目を持ち続けていたのだ。しかし、彼は、多くの人との出会いによって、少しずつ変わっていく。中学3年生の時、どうにか学校に登校した棚園さんに声をかけてくれた三上くん。中学卒業後に通ったアニメーションの専門学校で出会った喜田くん。大検受験者が集まるフリースクールのイタルくん。上京して始めた古本屋のアルバイト先の店長・屋谷さん…。たくさんの人との出会いが、棚園さんの人生を変えていったのだ。

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 棚園さんが抱き続けてきたのは、「フツウ」ではない自分への劣等感だ。「フツウ」の学校生活を送れなかった自分は、ダメな人間…。そんな思いに長い間取り憑かれていた。だが、「フツウ」になれない自分への葛藤を抱えている人は、きっと不登校経験者に限らないだろう。「みんなと同じ」でいたいのに、どうしても違ってしまう。学校に通えても周囲と合わせることに苦手意識を感じている人、会社で辛い思いをしている人、ちゃんとした大人になれない自分に焦りを感じている人…。不登校経験者に限らず、棚園さんの悩みには多くの人が共感させられるに違いない。そして、少年時代の棚園さんも、いろんな人との関わりの中で、悩みを抱えていたのは自分だけではなかったということに気付いていく。

 生き方・考え方に「正解」や「不正解」なんてない。「フツウ」という価値観に囚われずに、自分に合った道を見つければいい。この作品を読むと、自然と前向きな気持ちになれる。挫折を繰り返しながら、一歩ずつ前へと進んでいく少年の姿は、不登校の少年・少女たちはもちろんのこと、生きづらさを感じているすべての人の心を動かすに違いないだろう。

文=アサトーミナミ

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